乗其隙也(その隙に乗ずるなり)(「夢渓筆談」)
ムシは隙間から入り込んでくるぜ。

「おれたちは隙間からではなく正々堂々と戦うでクワ」「男同士の勝負でブト」
若い人たちの研修もこんな感じで議論するのかな?
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宋の時代のことです。安徽・濠州の定遠県に、
一弓手、善用矛、遠近皆伏其能。
一弓手の善く矛を用うるあり、遠近みなその能に伏す。
弓隊の兵士で、矛を扱うのが上手なのがいた。そのあたり一帯、彼にはみな一目置いていた。
さて、
有一偸亦善撃刺、常蔑視官軍、唯与此弓手不相下、曰、見必与之決生死。
一偸のまた撃刺を善くする有り、常に官軍を蔑視するも、ただこの弓手とのみ相下らず、曰く、必ずこれと生死を決するを見ん、と。
別に、野盗の中にも矛を使って撃ち刺すのを得意とする者がおった。この男、いつも官軍のやつらを見下していたのだが、上述の弓兵だけは自分と互角だと思っており、「いつかあいつと生死をかけて勝負することになるだろうな」と言っていた。
一日、弓手者因事至村歩、適値偸在市飲酒、勢不可避、遂曳矛而闘。
一日、弓手者事に因りて村に至りて歩みに、たまたま偸の市に在りて飲酒するに値(あ)い、勢い避くるべからず、遂に矛を曳きて闘う。
ある日、弓兵が何か用事があって郊外の村にでかけたとき、ちょうど村の店で矛使いの野盗が酒を飲んでいるに出会ってしまった。
「おいおい、ここで会って黙って通すわけにはいかないぜ」
とどうしても避けることができず、矛を持って戦うことになってしまった。
観者如堵墻、久之、各未能進。
観者堵墻の如きに、これを久しくするもおのおのいまだ進む能わず。
「こいつは見ものだぜ」「おれは盗人の兄貴にかけるね」「こどもの面倒なんて見てられないわよ」「どけ(ぼかん、杖で殴る音)、年寄にも見せるのじゃ」「うわーん」と大騒ぎ。
見物人が垣根や土塀のように周りを取り囲む中、二人はしばらくにらみ合っていたが、どちらからも手を出すことができない。
ただ、野盗の方が酒が入っている分、先に息が上がってきたようにも見えた。
弓手者忽謂偸曰、尉至矣。
弓手者忽ち偸に謂いて曰く、「尉至らん」と。
突然、弓兵の方が野盗に対して言った、「間もなく部隊長殿が来る」と。
「はあ? こっちにも仲間はいるぜ」
「いや、部隊長殿はそんな方ではない。相当腕の立つ方で、おとこ道にもご理解のある方だ。
我与爾皆健者、爾敢与我尉馬前決生死乎。
我、爾とみな健者なり、爾あえて我と尉の馬前に生死を決せんや。
おれも、おまえもどちらも手練れ者、どうだ、おまえもどうせなら、部隊長どのの馬の前でおれとの決着をつけてくれんか。無理にとは言わんが」
「ほう」
酒の勢いであろう、
偸曰、諾。
偸曰く、「諾なり」と。
野盗は矛を降ろして言った。「よかろう」
その瞬間、
弓手応声刺之、一挙而斃。
弓手声に応じてこれを刺し、一挙にして斃せり。
弓兵は、その返事に応えるかのように目にもとまらぬ速さで矛を突き出し、野盗を刺して、その一撃で殺してしまった。
「うわー」「すげーぜ」「しびれるわ!」「じいさん、しっかりしろ」と群衆がはやし立て、野盗たちが仲間の死体を引きずって逃げていく中、弓兵はつぶやいた。
「盗人などになるから、バカなやつだ」
蓋乗其隙也。
けだしその隙に乗ずるなり。
つまり、相手の隙に乗じたのだ。
水滸伝の世界を見るようではありませんか。「おとこ道」(侠道)かっこいい!!!
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宋・沈括「夢渓筆談」巻十三より。みなさんも油断しているとやられるよ。おれたちムシのように心の隙間から忍び込んで、刺す、かも。
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