術無所施(術の施すところ無し)(「括異志」)
術に頼るものは術が利かないと追い込まれます。

術が効かないなら、ちまき食べて腹ごしらえだ。
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北宋の景祐年間(1034~38)のことですが、
利州道士税某善幻妖洎符禁之術。
利州道士・税某、幻妖洎(およ)び符禁の術を善くす。
「洎」(き)は「水に浸す」の意なのですが、「曁」(き)は「及」(きゅう)と音が似ているので、動詞の「およぶ」とか「・・・と・・・」という助詞に使われます。
四川・利州の道士、税なにがしは、幻覚を見せたりお札で相手を攻撃したりする術が得意であった。
うらやましいですね。
利之富民或有所求不与者、即為壇于密室、置大桶于前、被髪仗剣、追其魂神入桶、覆之以石、其人乃病。
利の富民あるいは求むるところを与えざる者は、即ち壇を密室に為(つく)り、大桶を前に置き、被髪して剣に仗(よ)り、その魂神を追いて桶に入らしめ、これを覆うに石を以てすれば、その人すなわち病む。
利州の上層階級や道士の勧誘にも関わらず喜捨をしない者がいると、外部から閉ざされた部屋の中に祭壇と大きな桶を前にして祈祷する。それによって、呪いたい相手の魂を桶の中に追い込み、上からふたをして石を置いてしまうと、その対象者は必ず病気になってしまうのだった。
然後仮以符水、或祠醮、厚謝以財、乃去石遣之、其人遂瘉。
然る後、仮に符水を以てし、あるいは祠醮して、財を以て厚謝すれば、すなわち石を去りてこれを遣り、その人は遂に瘉ゆ。
そうしてから、とりあえずお札を溶かした水を飲ませたり、祠でお酒を注いで祀ったりして、道士に厚いお謝礼をすれば、桶のふたの上の石を取り外して桶の中の魂を本人のところに帰らせる。
いいですね。おカネ儲けもできるんだ。
市井有鬻籠餅洎猪肉者、求之即瘉、不爾遂化為白鴿飛去、或即虫出。
市井に籠餅と猪肉を鬻(ひさ)ぐ者有りて、これを求むれば即ち瘉え、のみならず遂に化して白鴿と為りて飛び去り、あるいは即ち虫出づ。
ちょっと難しい文章なのですが、道士のエージェントが(パチンコ屋の三角方式みたいな形で)モチを高額に買わせるというビジネスモデルを構築していた、と解すると理解できます。
町中で、ザルで蒸したモチとブタ肉を売っている者がいる。これを買うとすぐに病気は治る。それだけでなく、モチが白いハトになって飛び去ったり、あるいはヘビになってザルから出て行ったりする。
利人皆神而畏之。
利人みな神にしてこれを畏る。
利州の住民は、みな神のようなものと思ってこの人のことを畏怖していた。
ところが、
嘗怒一僧、遇野外、作法叱之。僧足如植、手亦不能挙、恣行鞭捶。
嘗て一僧に怒り、野外に遇いて作法してこれを叱す。僧、足植うるが如く、手もまた挙ぐる能わず、恣ままに鞭捶を行わる。
ある時、ある僧に対して怒ることがあった。原野で待ち伏せし、方術をしかけて「えい」と声をかけると、(ああ、なんと不思議ではありませんか)僧の足は植え付けられたように動かなくなり、手も挙げられなくなった。身動きができなくなったところで、道士は僧を好き放題ムチでぶん殴ったのである。
「今日のところはこのぐらいにしておいてやるわ」
ひどい目にあった僧は「覚えておれ・・・」と呟いた。
どうしたかといいますと、
僧密訟于官、命賊曹擒捕。
僧ひそかに官に訟え、賊曹に命じて擒捕せしむ。
僧は、ひそかに役所に訴え出たのだ。役所では、賊曹(盗賊改め係)に命じて、税道士を逮捕させた。
賊曹はプロなので、術者を捕える方法を熟知していました。
先沃以犬彘之血、術無所施。獄具、遂斬于市。
先ず犬彘の血を以て沃すれば、術施すところ無し。獄具(そな)わり、遂に市に斬る。
先に、イヌとブタの血を振りかけてしまうと、その術は効かなくなってしまった。取り調べによって罪状が明らかになり、とうとう市場で斬罪に処せられた。
これは油断しましたね。まさか役所に告げ口するとは。
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宋・張師正「括異志」巻第八より。油断大敵です。役所にはいろんな専門家がいるようです。ところで、岡本全勝さんところでこんな記事を見つけました。クリックしていくと、「油断」の語源がわかります。なるほど、「委(ゆだ)ねる」「寛(ゆた)に」といった和語だと考えるのがよさそうですね。全勝さんの知り合いはいろんな人がいるなあ。
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