一字速化(一字にて速やかに化す)(「原李耳載」)
みなさんは、化けて何に変じるんでしょうか。

モグになって土でも食うでモグ。あんがい美味い。
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むかしむかし、蜀の国に立派な紳士がいた。家産を息子に譲り、隠居することにして、
素好長生術、入山、習静石洞中。一日、有羽士訪焉。
もとより長生の術を好み、山に入りて石洞中に習静す。一日、羽士の訪ずれる有り。
不老長生の術に強い興味を持ち、山の中に入って石の洞窟の中で静かに術を修めていた。そんなある日、洞窟に道士がやってきた。
「だんなちゃま、変な道士が来まちたよ」
童子以告、公謂偽託雲水者、辞不見。
童子以て告ぐるに、公は、雲水に偽託する者ならん、と謂い、辞して見(まみ)えず。
山中で身の回りの世話をしている童子が取り次いだが、だんなさまは「雲や水のように自由に生きる境遇にあると偽って騙そうという輩であろう」と言って、面会をお断りしてしまった。
「おお、そんなこと言うておったか、そうかそうか」
羽士拾瓜皮書午字、於洞前石門、字痕穿石。
羽士、瓜皮を拾いて洞前の石門に「午」字を書するに、字痕石を穿てり。
道士は、捨てられていたウリの皮を拾い上げると、それで洞窟の入り口の石の門に「午」という字を書いた。すると、字は石に穴をあけて刻み込まれたのであった。
「これをご主人に見せておけ」
「あい、でちゅ」
童子は道士が十分遠くまで行って、もう追いかけられなくなるのを待って、
反報。
反りて報ず。
洞窟の中に入って、「すごいことがありましたよー」と報告した。
「なんじゃと!」
公視之曰、真師見訪而不遇、罪甚矣。書午字責之也。
公、これを視て曰く、真師の訪ずれらるに見(あ)いて遇わず、罪甚だしきかな。午字を書けるはこれを責むるならん、と。
だんなは石に穿たれた「午」の字を見て、言った。「ほんものの大先生がお見えになったのだ。それなのにお会いしなかった。なんという大失敗だ。「午」の字を書いて、わしをお叱りになったのだ」と。
さらにじっと字を見ていたが、やおら「なるほど」と目を光らせた。
責我為不出頭牛耳。
我を責むるに、頭を牛に出でずと為すのみ。
「わしをお叱りになったといっても、ウシより頭一つ分下、と言っておられるだけだな。
ウシの真似をすればいいのだ」
呼童取水、沐浴而逝。
童を呼びて水を取らせ、沐浴して逝けり。
すぐに童子に水を汲んでこさせ、ウシが水浴びをするように行水をして、し終わると死んだ。
「うわあ、死にまちた!」
童子の報せに、
家人驚至、既斂、舁棺不能動。
家人驚き至りて既に斂め、棺を舁くに動かす能わず。
麓から家族が驚いて山中にやってきて、棺桶に収め、家まで運ぼうとしたのだが、何人かで担いでも棺桶がびくとも動かないのだ。
童子が言う、
想是羽化、無所用棺也。
想うにこれ羽化し、棺を用うるところ無きならん。
「推測するに、だんなさまはもう仙人になって仙界に向かわれてしまったのではないかと思われまちゅ。そこで、棺桶なんか利用する必要がない、と主張しているのでは」
棺桶の蓋を開いてみると、果たして、
惟双履而已。
ただ双履のみ。
(死体はすでに無く、)ただ一足のくつが遺されているだけであった。
はるかむかし、まだひとびとが純朴だった時代のお話である。
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明・李中馥「原李耳載」巻下より。そんなことあるはずない、と思いますよね。
「いい加減なこと言わないでくださいよ」
と作者に言ってみたら、
「はるか昔のことですから」
ととぼけるのである。昔なら何があってもいいじゃないですか、というぐらいの軽い気持ちなのでしょう。昔むかしには、市場経済が資本主義でなかった時代もあったというほどですから。
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