以示人耳(以て人に示すのみ)(「履園叢話」)
この話はコワい。引きずり込まれて行く。もうダメだ。

カンパネルラくん、肝冷庵はそろそろ銀河鉄道に乗らなければならない歳なのに、まだブタの画などを描いて暮らしているそうだよ。
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清・乾隆己酉(1789)年の十一月、と時は明らか、常熟の任陽郷のこと、と場所も確定しているのであるが、
有不孝婦、欲殺其姑、置毒薬於餅中、而自往他所避之。
不孝の婦有り、その姑を殺さんと欲し、毒薬を餅中に置き、自ら他所に往きてこれを避く。
不孝ものの嫁がおって、その姑を殺そうとしたんじゃ。餅の中に毒薬を入れて、自分は他のところに出かけてアリバイを作った。
其姑将食、忽有一乞人、来求其餅。
その姑まさに食らわんとするに、忽ち一乞人有りて、来たりてその餅を求む。
姑がその餅を食おうとしたその時だ、突然一人の乞食が来て、「その餅を恵んでくだされ」と懇願した。
だが、このばばあもさるものだ、
不肯。
肯ぜず。
「イヤだね」と言った。
すると、
乞人袖中出一紅綾衫与之換。
乞人、袖中より一の紅綾衫を出だしてこれと換えんとす。
乞食は袖の中から、一枚の赤い端切れを取り出してきた。端切れと見えたが、それは汚れているとはいえ、赤い綾絹で作った袖なしの下着である。
なかなかの掘り出しものである。空腹には替えられないのであろう、これをこの餅と交換しようとは、愚かなことだ。(だが、読者諸氏よ、愚かな者が乞食になる。優れた者は豐かになる。良い世の中ではないか・・・と思ってませんか?)
姑は、それと餅を引き換えました。
婦帰家、姑喜示其衣。婦又奪之。
婦家に帰るに、姑喜びてその衣を示す。婦またこれを奪う。
嫁は家に帰ってきた。ところがあにはからんや、姑は生きていて、手に入れた衣を見せびらかすのである。嫁は
「なんでこんないいものを手に入れたのよ!もとはといえばあたしの餅じゃないの!」
と姑からその衣を奪った。
おそろしい女ではありませんか。あるいはしばらく前から正気を失っているのかもしれぬ。
初著身、忽然堕地、姑急扶之、不能起、忽変成豬。
初め身に著するに、忽然として地に堕ち、姑急ぎこれを扶くるも起つ能わず、忽ち変じて豬(ちょ)と成る。
自分で着ようとして身に着けた瞬間だ、突然、嫁が地に倒れた。姑はあわててこれを助け起こそうとしたが、立つことができず、あっという間に嫁はブタに変化していったのだ。
姑の叫び声を聞いて、
隣人咸集。
隣人みな集まる。
近所の人たちがみんな集まってきた。
その人々の前で、
不孝婦猶語、曰、我本応天誅、以今生無他罪過、故変豬、以示人耳。
不孝の婦なお語りて曰く、「我もとより天誅に応ずべし、今生に他の罪過無きを以て、故に豬に変じ、以て人に示すのみ」と。
不孝ものの嫁は、その時はまだ人間の言葉で語った。
「あたしは当然、天誅されるべきことをしたんですわ。ただ、この人生の中で他には大きな罪が無いので、ブタに変化して、(罪のある人間がこうなるということを)ひとびとに見せつけようとしているのです」
主語は自分なので、すごく不思議です。おそらく、嫁と「造物主」は同一化しているのでしょう。
言訖而竟成豬叫矣。独其前脚猶似人手。
言訖(おわ)りてついに豬の叫びを成す。ひとりその前脚なお人手に似たり。
話し終わって、それからはブタの声で鳴くばかりであった。だが、その前脚だけはまだ人間の両腕のようであった。
太倉毛稼夫親見其事、為余言之甚詳。
太倉の毛稼夫、親(みず)からその事を見、余のためにこれを言うこと甚だ詳らかなり。
蘇州・太倉の毛稼夫くんが、自分でその事件を見たのだそうで、わたしに対してたいへん詳しく教えてくれたのである。
だから、わたしが勝手に考えたのではありません。
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清・銭泳「履園叢話」十七「報応」より。今日もそれほど多くは食べてないのに太ったのである。ふつうのひとの少し多いだけぐらいなのに。いろいろ悪いことをしてきたので、だんだんブタに変化して、以てみなさんに示しているのである。読者諸氏もよろしく反省願いたいでブー! 特にこちらはあんまり逃げ続けるとブタになるかもでブー!
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