安独無情(いずくんぞ独り無情なる)(「晋書」)
もう呼吸とかするのめんどくさくなってきました。

これからは木の実でも食って生きていこうと思っていたが、最後にカニを食うか。
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東晋はじめごろの郭文、字・文挙は河内・軹(し。今の河南・済源)のひとなり。
少愛山水、尚嘉遁、毎游山林、忘返彌旬。
少(わか)くして山水を愛し、嘉遁を尚(たっと)び、山林に游ぶごとに、返るを忘るること旬に彌(わた)る。
若いころから山と水、大自然に親しむことを愛し、「嘉遁」(よい逃走)を希望していた。山中に入ると、帰ってくるのを忘れて十日ほど経ってやっと帰ってくるのであった。
郭文は、父母が亡くなってその喪に服していたが、やがて喪が明けると、
不娶、辞家游名山、恒著鹿裘葛巾、採竹葉木実、貿塩以自供。
娶らず、家を辞して名山に遊び、つねに鹿裘・葛巾を著して、竹葉・木実を採り、塩と貿(か)えて以て自ら供う。
結婚もせず、家を離れて神秘的な山に旅し、いつもシカの毛皮の衣、クズ繊維で織った頭巾を付け、竹の葉や木の実を採って、塩と物々交換して自分で摂取していた。
お酒や肉類は手に入れることさえしなかったのだと思います。
食有余穀、輒恤窮匱。
食に余穀有れば、すなわち窮匱(きゅうき)を恤(あわれ)む。
食べ物に余りがあると、すぐに極めて窮乏している人たちに与えて救済した。
東晋の宰相・王導はその名声を聞いて人を遣わしてお迎えすると、建康にある自らの屋敷の西園に住まわせた。
山西出身で用兵家としても名高い温嶠が面会して、訊いてみた。
先生安独無情乎。
先生、いずくんぞ独り無情なるか。
「先生はどうして、他の人と違って情が無い、すなわち人間としての欲望がないのですか」
食べたいとか、カネが欲しいとか、アレをしたい接待しろ、とか、いろいろ欲望がありますでしょう。ほんとに無いんですか。へへへへ。
郭文は答えた、
情由憶生。不憶故無情。
情は生を憶せるよりす。憶せざる故に無情なり。
「欲望というのは生きていくとどうなるかと想像するから起こるものなのだ。わしは想像しないから、欲望が無いのである」
「なるほど。では、
先生、独処窮山、若疾病遭命、或為烏鳥所食。顧不酷乎。
先生、独り窮山に処るに、もし疾病遭命せば、あるいは烏鳥の食らうところと為る。顧みて酷ならざるか。
先生のようにただ一人ですごい奥山に居られると、もし病気になったり運命的な自己に遭ったりしたら、死体がそのままになって、カラスや鳥に食われてしまうのですぞ。考えて見ればひどい話ではございませんか」
先生は言った、
蔵埋者亦為螻蟻所食、復何異乎。
蔵埋者もまた螻蟻(ろうぎ)の食らうところとなる、また何ぞ異ならんや。
「地中に埋めてもらっても、結局おけらやアリに食われるだけですから、(野ざらしで鳥に食われるのと)またどこか違っている部分があるだろうか。同じではないか」
と。
ある晩、王導の家では宴会が開かれ、お酒や料理や音楽や妓女が並べられていた。王導は瀟洒な文化人ですから、同席者に「先生もお呼びしようではないか」と言って、西園の小屋にいある郭文を呼んだ。
こんなところに来てくれるのかな、と危ぶんだが、
文瞠眸不転、跨躡華堂、如行林野。於時坐者咸有鉤深味遠之言、文常称不達来語、天機堅宏、莫有窺其門者。
文、瞠眸して転ぜず、華堂を跨躡して林野を行くが如し。時に坐者みな味遠の言を鉤深せんとする有るも、文常に「来語に達せず」と称し、天機堅宏にしてその門を窺う者有る莫(な)し。
郭文は目を見開いて、ひとみを真っすぐに前に向けて微動だにせず、華麗な屋敷の中をずかずかと野原を行くかのように、近づいてきた。同席したひとびとは、何かありがたいコトバをいただいて、郭文の境地を探ってみようとするのだが、文は誰に対しても、「おっしゃことがよくわかりません」と答えて、天の秘密は固く守り、彼の学問の片端を窺えた者はいなかった。
一旦、忽求還山。及蘇峻反、人皆以為知幾。
一旦、忽ち山に還らんことを求む。蘇峻の反せるに及んで、人みな以て幾を知れりと爲しぬ。
ある日突然、王導に別れを告げて河南の山中に帰って行った。直後に蘇峻の反乱が起こり、建康の町も荒らされ、ひとびとは「郭文さまは、やはり時機をよくご存じじゃった」と感心した。
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元・張雨「玄品録」巻二より。賢者だとは思うのですが、ちょっと中途半端です。毎日ハダカで歩くとかそういう奇行が欲しいところです。なお、このお話、「晋書」巻九十四「郭文伝」では途中まで同じなのですが、途中から何だか違ってきてしまいます。気になる方はこちらもどうぞ。
そういえば、選挙前一週間を切って、「憲法改正もさせてください」と総理の女の人が言いはじめたらしいんです。かなりの奇行かも。統治には不信ないです。まったく。ほんとに。うっしっし。
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