蛇固無足(蛇、もとより足無し)(「戦国策」)
今日、以下のように斉を攻めることの是非を説明してきた・・・というわけではありません。立派な施設を見学させていただき、意見交換をしてきました。

足のあるヘビはそもそも龍なのではないか。
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戦国の時代、楚の国では、他国でいう将軍や大臣のことを「柱国」、大将軍や宰相のことを「上柱国」と呼んでいました。
その柱国であった昭陽が魏を攻め、魏の軍を潰滅させ、その将を殺し、さらに八つの都市を陥落させた。さらにその上に、魏の背後にある同盟を崩壊させようと、
移兵而攻斉。
兵を移して斉を攻む。
軍事行動の目的を変更して、斉の国まで攻めこもうとしていた。
斉王は客卿の陳畛に相談した。
陳畛は、「よろしい、説いてみましょう」と、ただちに陣中の昭陽のところに出向いた。
再拝賀戦勝、起而問、楚之法、覆軍殺将、其官爵何也。
再拝して戦勝を賀し、起ちて問う、「楚の法、軍を覆し将を殺せば、その官爵何ぞや」と。
(コメツキバッタのように)二回這いつくばって礼拝して、戦争での勝利をお祝い申し上げた後、起き上がって訊ねた。
「ところで、楚の国の決まりでは、(あなたさまのように)敵の軍を潰滅させ、その将を殺すという手柄を立てた場合、どのような官と位をいただくものなのでございますか」
昭陽は答えた、
官為上柱国、爵為上執圭。
官は上柱国と為り、爵は上執圭たらん。
「大将軍の官に就いて、上級角玉保持者の位をもらうことになるでしょうな」
異貴於此者、何也。
これに異なりて貴なるものは何ぞや。
「もっと特別に尊い地位というのはありますか」
唯令尹耳。
ただ令尹のみ。
「あとは令尹(総理大臣)ぐらいだな」
陳畛は言った、
令尹貴矣。王非置両令尹也。臣竊為公譬、可乎。楚有祠者、賜其舎人巵酒・・・
令尹、貴なり。王、両令尹を置くに非ざらん。臣竊(ひそ)かに公の為に譬(たと)う、可なるか。楚に祠者有りて、その舎人に巵酒を賜う・・・・
「楚の「総理大臣」といえばたいへんお偉い。しかし、(今すでに令尹さまはおられますから)楚王は総理大臣を二人になさるわけにはいきますまい。(あれ?すると今の令尹はどう考える?)
やつがれ、昭陽殿のために勝手にあるたとえ話を申し上げましょう。楚の国に祭祀を行う者があって、無事終わったので、その部下たちに大盃いっぱいのお酒を下賜したのでございますが・・・・。
以下、みなさまご存じの「蛇足」のお話が入ります。省略。
・・・為蛇足者、終亡其酒。今君相楚而攻魏、破軍殺将、得八城、不弱兵欲攻斉。斉畏公甚。
・・・蛇足を為す者、ついにその酒を亡えり。今、君、楚に相たりて魏を攻め、軍を破り将を殺し、八城を得て、兵を弱めずして斉を攻めんと欲す。斉、公を畏れること甚だし。
「・・・というわけで、蛇足を付け足そうとしたものは、とうとうその酒を失ってしまった、ということでございました。わはは。
ところで、昭陽さま、いまあなたは楚の国の大臣(柱国)であり、魏を攻めて、軍を潰滅させ将を殺し、八つの都市を手に入れて、なお軍の力を弱めることをせず、斉を攻めようとされているとのこと。(わたしが後にしてきた)斉の国では、あなたさまのことをたいへん畏れておりました。
公以是為名亦足矣。官之上亦非可重也。
公はこれを以て名を為せばまた足りん。官の上、また重ぬるべきに非ざるなり。
とのさまは、ここまでの功績で十分な名誉になりましょう。官職は(すでに上柱国までは約束されているのですから)これ以上さらに上に行くということにはなりますまい。
さて、
戦無不勝、而不知止、身且死、爵且後帰。猶為蛇足也。
戦に勝たざる無くして止まるを知らざれば、身まさに死して爵はまさに後に帰さん。蛇足を為すがごとし。
合戦に勝ちつづけて、止めるタイミングを考えないでおられる者がいたとしたら、自身が死ぬのが先で、褒賞の爵位は後からもらうことになるのでしょう。ヘビに足を描き加えた者のように」
「ふむ・・・」
昭陽以為然、解軍而去。
昭陽、以て然りと為し、軍を解きて去れり。
昭陽はこれに納得して、軍を解散させて帰国した。
さてさて、昭陽さまが斉を攻めるのは誰にとって「蛇足」だったんでしょうか。ヘビの足を描いてしまったとき、横から杯を取ってしまう者は本当にいたのでしょうか。
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「戦国策」斉策より。「虎の威を仮る狐」のお話でも申し上げました(先代肝冷斎時代ですが)が、君主が本当に悪むべきなのはキツネではなくてその話をしているやつ、この「蛇足」でもヘビの足を描かれて損をするのはヘビの足を描いたやつではなくてその話をしているやつ、と、このことにみなさま何時になったらお気づきになりますことやら。くっくっく・・・(←泣いているのではありません。含み笑い)。
(応用問題)次のうち、現在の国民が「蛇足」と考えているのは、どれだと思いますか。(複数回答も可) ※マジメに考えてみたい人はこちらへどうぞ。
- 景気が上昇しつつあるときの経済対策
- 不足なのに行われる経済対策
- 何をやっても無駄なのに行われる経済対策
- 財源がないのに経済対策を打つことへの反対
- 財源対策を論ずること
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