宇内三権(宇内に三権あり)(「呻吟語」)
この三権は分立してないみたいなんです。

うだうだしていると、人民の怒りがバクハツするぜ!どどどどどん。
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明代のひとが言っていることですから、現代のように優れたものではありませんよ。
・・・と断ってから話を始めないと、後で文句言われるかも知れませんので、まずは「おことわり」を申し上げました。
さて、
宇内有三権。
宇内に三権有り。
世界には、三つの権限がある。
ほう。
天之権曰禍福、人君之権曰刑賞、天下之権曰褒貶。
天の権曰く禍福、人君の権曰く刑賞、天下の権曰く褒貶なり。
天が持っている権限を、「禍い」と「幸運」という。
君主の持っている権限を、「刑罰」と「賞与」という。
しもじもの人民たちが持っている権限を、「ほめる」と「けなす」という。
なるほど。
禍福不爽、曰天道之清平。有不尽然者、奪於気数。
刑賞不忒、曰君道之清平。有不尽然者、限於見聞、蔽於喜怒。
褒貶不誣、曰人道之清平。有不尽然者、偏於愛憎、誤於声響。
禍福爽(たが)わざるを、天道の清平と曰う。然るを尽くさざる有るは、気数に奪わるなり。
刑賞忒(たが)わざるを、君道の清平と曰う。然るを尽くさざる有るは、見聞に限られ、喜怒に蔽わるなり。
褒貶誣(たが)わざるを、人道の清平と曰う。然るを尽くさざる有るは、愛憎に偏し、声響に誤またるなり。
禍いと幸運が与えられるべき人に与えられるのを、天の道が清廉にして公平だ、という。そうなっていない場合があるとすると、それは運勢に妨害されているのだ。
刑罰と賞与が与えられるべき人に与えられるのを、君の道が清廉にして公平だ、という。そうなっていない場合があるとすると、見聞した情報が限定されているか、個人的な喜怒に捉われてしまっているのだ。
ほめるとけなすが与えられるべき人に与えられるのを、人の道が清廉にして公平だ、という。そうなっていない場合があるとすると、えこひいきによって偏っているか、世俗の評判によって誤解させられているのだ。
この三権の中でも、人民が掌る「褒貶」が特に重大なんです。
褒貶者、天之所恃以為禍福者也。故曰、天視自我民視、天聴自我民聴。
褒貶なるものは、天の恃みて以て禍福を為すところのものなり。故に曰く、「天の視るは我が民の視るよりし、天の聴くは我が民の聴くよりす」と。
人民の下す「ほめる」と「けなす」というのは、天がそれに依存して、「禍い」と「幸運」を降す基準になるものなのだ。だから、「書経」(泰誓中篇)には言うではないか、
天は、わが(周の)人民が視るものを視ておられる。天は、わが人民が聴くものを聴いておられる。(天のお考えは、わが民の思いと同じになるのだ。)
と。
また、褒貶は、
君之所恃以為刑賞者也。故曰、好人之所悪、悪人之所好、是謂払人之性。
君の恃みて以て刑賞を為すところのものなり。故に曰く、「人の悪(にく)むところを好しとし、人の好しとするところを悪む、これを人の性に払(もと)ると謂うなり」と。
君主がそれに依存して、「刑罰」と「賞与」を降す基準になるものなのだ。だから、「大学」(伝十章)には言うではないか、
みんながいやがることをいいことだと思い、みんながいいことだと思うことをいやがる、これは人間性に反すると言われる。
と。
褒貶不可以不慎也。是天道君道之所用也。一有作好作悪、是謂天之罪人、君之戮民。
褒貶は以て慎まざるべからざるなり。これ天道・君道の用うるところなり。一も好しと作し悪しと作せば、これを天の罪人、君の戮民と謂う。
人民のみなさまよ、「ほめる」「けなす」は慎重にしなければなりませんぞ。それは、天の道・君主の道を全うするために活用されるものなのですから。少しでも自分たちの作為で「あれが好き」「これはイヤ」とレッテル貼りしたら、あなたたちが「天の罪人」となり「君主が誅殺すべき人」とされるのですぞ。
やっぱり主権の存するみなさんの責任にされてしまいましたよ。
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明・呂坤「呻吟語」より。ポピュリズムに躍らされていると人民のみなさんは、天や君主に「おれたちに間違った情報を入れやがって」と、ぶちゅっとやられますよ、というのです。
―――わたしたちは主権者なのに? 明の、時代おくれのやつに何がわかるというの?
―――民衆が一番かしこい、と「〇点」できくぞうさんが言ってたのに?
―――すべてマスゴミのせいだ、おれたちは悪くないのだ。
という声も聞こえてまいりますが、「老子」に曰う、
天地不仁、以万物為芻狗。聖人不仁、以百姓為芻狗。
天地仁ならず、万物を以て芻狗と為す。聖人仁ならず、百姓を以て芻狗と為す。
天地に優しさなんてあるはずがない。あらゆるモノがお祭に使われる藁のイヌと同じで、お祭が終われば焼き捨てられるだけなのさ。聖人さまに優しさなんてあるはずがない。おれたち人民はお祭に使われる藁のイヌと同じで、お祭が終われば焼き捨てられるだけなのさ。
と。みなさん、所詮藁のイヌ・・・おおっと、まずいまずい、本当のことを言ってしまってはいけません。
多言数窮、不如守中。
多言すればしばしば窮まる、中を守るに如かず。
言いすぎると窮地に追い込まれるものである、世界の真ん中でじっとしているのに勝ることはない。
のでしたわい。うっしっし。