乃鼠糞也(すなわち鼠糞なり)(「酉陽雑俎」)
今日は死力を尽くして人間ドックに行って、行くことに力を使い果たしてしまいました。ほんとにもう疲れてきた。人生に。

ただの幻覚じゃねーの?
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疲労困憊して、もう論理的な思考などできません。
唐の時代のことですが、河南・登封に一士人(地方貴族・読書人)があった。河南・登封といえば「天下第一山」と称賛される嵩山があり、その麓にはダルマ大師が建立したという少林寺もあって、「天地中央」とも呼ばれる人文の発達した地でありますが、その士人は、
客游十余年、帰荘。夜久、士人睡未著、忽有星火発于墻堵下、初為蛍。
客游すること十余年にして荘に帰る。夜久しくして、士人睡りいまだ著せざるに、忽ち星火の墻堵の下に発する有りて、初めは蛍ならんと為せり。
各地をわたり歩くこと十余年、ようやく本拠地の田舎の領地に戻ってきたのであった。
その晩遅くまで、士人はなかなか寝つかれなかったが、夜中に突然、土塀の下あたりから、ちらちらと小さなは光がきらめき出した。
(ホタルであろうか・・・)
と思っていると、
稍稍芒起、大如弾丸、飛燭四隅、漸低、輪転来往、去士人面才尺余。
稍稍にして芒起こり、大なること弾丸の如く、飛びて四隅を燭して漸く低く、輪転して来往し、士人の面を去ることわずかに尺余りなり。
やがてだんだんと光芒が強くなってきて、はじき玉のような大きさになり、部屋の四隅に飛んで隅っこを照らしたあと、今度は高度を下げてぐるぐる回転しながらやってきて、士人の顔からわずかに40センチぐらいのところまで近づいてきた。
細視、光中有一女子、貫釵、紅衫碧裙、揺首擺尾、具体可愛。
細視するに、光中に一女子有りて、釵を貫き紅衫・碧裙、首を揺らし尾を擺(ふ)って、具体愛すべし。
じっと細かくみてみると、その光の玉の中には女性がいる。かんざしを挿し、赤い上っ張りに青のスカート、アタマをふらふら腰をくねくねさせて、実物のようにすばらしい。
「うへへ」
士人因張手掩獲。
士人因りて手を張りて掩穫す。
士人は、そこで、両手をひろげて、この光玉を蔽い、捕まえた・・・。
捕まえたものを灯火の下に持っていきました。
燭之、乃鼠糞也。
これを燭するに、すなわち鼠の糞であった。
灯りの下でよくよく見ると、その弾丸のようなもの、はネズミのフンだったのだ。
「なんだ、これ」
大如鶏巣子。破視、有虫首赤身青。殺之。
大きさ鶏の巣子の如し。破視するに、虫の首赤く身青き有り。これを殺す。
大きさはニワトリの巣の中にあるタマゴぐらいである。割って中身を見てみると、
「うわ」
頭が赤く、体は青色のヘビが出てきたので、すぐ殺した。
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唐・段成式「酉陽雑俎」続集巻二より。理由も分析も無くアナーキーで、如何にも東洋的な統一性の無さがいいですね。現代人なら気力充実してますから「これはなんだ?」と科学的に分析したり、「まぼろしを見たのだ」と自己の内面を探ったりすると思うのですが、当時の人は疲労困憊してて考える力が無かったんでしょう。