不知天下寒(天下の寒きを知らず)(呂温「聞碪有感」)
お盆になりました。関東地方、ムシムシしますが気温は少し下がってきたかな?

お久しぶり!
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今日は久しぶりで唐詩を読んでみましょう。これは、八月十五日のことを歌っている詩のはずですが・・・。
千門儼雲端、 千門は雲端に儼とし、
此地富羅紈。 この地、羅紈に富む。
雲の端っこ(雲の上である宮中の外側に)千の門が厳めしい。
首都のこの町は、薄い白絹が名産だ。
その白絹の光沢を出すため、女性たちが夜なべして槌で叩くのが「きぬた(碪、砧(ちん))を擣(う)つ」あるいは「擣衣(衣を擣つ)」という作業である。
秋月三五夜、 秋月三五の夜、
碪声満長安。 碪声(ちんせい)長安に満つ。
おりしも今宵は秋の十五夜(中秋の満月は八月十五日)、
きぬたの音が長安中に聞こえている。
どこの家でも旅路にある愛しい男に秋の服を着せるために、女たちがきぬたを打っているのであろう。
幽人感中懐、 幽人、中懐に感じ、
静聴涙汍瀾。 静聴して、涙、汍瀾たり。
「汍瀾」(がんらん)は、涙が粒になって流れるようす。
さびしいわたしは、心のど真ん中に感じ入り、
静かにその音を聴いているうち、なみだがなみなみとこぼれてきた。
所恨擣衣人、 恨むるところは衣を擣つの人の、
不知天下寒。 天下の寒きを知らざること。
きぬたを擣っている人たちに文句があります。
あなたは知らない、あなたの大切な人だけでなく、世界のみんなが寒いのだということを。(わたしもこんなに心が寒いのだ。)
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唐・呂温「聞碪有感」(碪を聞きて感有り)(「文粋」による)。今日もムシムシと暑いのに、なぜこの詩はこんなに寒い?・・・しまった! 旧暦八月十五日の詩でした! しかもこれ、八月ではなくて九月なんでしょうね。そうすると現代暦の10月末ぐらい。
・・・間違ったふりをして少し涼しくなっていただこうという趣向でした。
作者の呂温は中唐のひと、おやじは宰相クラスに昇進し、本人も科挙に受かった上級国民ながら、牛李の党争に巻き込まれて(牛派のようです)いろいろたいへんな人生を歩んだようですが、この詩の天下の寒きを知らず、の句は、自分や自分の周りのことばかりを考えて、世界中のひとのことを考えていない、という意味で使えるので、覚えておいてください。特にSDGsの人など向き。