君子貴玉(君子は玉を貴ぶ)(「孔子家語」)
それにしても、みなさんは何故カネを貴ぶのか。

独りだとヘビ花火ぐらいでガマンできそうですが、複数でご行動される方がたはそうはいかないのでしょうなあ。
・・・・・・・・・・・・・・・
子貢が孔子に質問した。
君子貴玉而賤珉、何也。為玉之寡而珉之多歟。
君子、玉を貴びて珉(びん)を賤しむは、何ぞや。玉の寡くして珉の多きがためか。
―――立派な方々が、玉を貴び、玉に似た色の石にはがっかりするのは、どうしてですか。玉は少ないけど石は多いからですかね。
孔子はおっしゃった、
非為玉之寡故貴之、珉之多故賤之。
玉の寡きが故にこれを貴び、珉の多きが故にこれを賤しむと爲すにあらず。
―――玉が少ないから貴び、石が多いからがっかりする、のではない。
そうですか、経済学ではないんですね、ありがとうございました。
いやいや、もう少し聞いていきなされ。
夫昔者君子比徳於玉。
それ、昔、君子は徳を玉に比せり。
―――ああ、いにしえのよき人々は、玉を徳の譬喩としたのだ。
①温潤而澤、仁也。②縝密而栗、智也。③廉而不劌、義也。④垂之如墜、礼也。⑤叩之其声清越而長、其終則詘然、楽也。⑥瑕不掩瑜、瑜不掩瑕、忠也。⑦孚尹旁達、信也。⑧気如白虹、天也。⑨精神見于山川、地也。⑩珪璋特達、徳也。⑪天下莫不貴者、道也。
①温潤にして澤なるは、仁なり。 温もりがあってしっとりして光っているので、人に対する思いやりを連想する。
②縝密にして栗なるは、智なり。 しっかり中身が詰まっていて、栗のように堅いので、知識の体系を連想する。
③廉にして劌(かい)されざるは、義なり。 角張っていて、分割することができないので、折り目正しい行動を連想する。
④これを垂らすに墜つるが如きは、礼なり。 ぶらさげると下へ下へと落ちて行こうとするので、人にへりくる社会のしきたりを連想する。
⑤これを叩けばその声清越にして長く、その終われば詘然(くつぜん)たるは、楽なり。 打ち鳴らせば清らかで高い音が長く響き、鳴り終わると沈黙するので、音楽を連想する。
⑥瑕(きず)は瑜を掩わず、瑜は瑕を掩わざるは、忠なり。 キズがあっても美しい部分があることも明らかであり、美しい部分があってもキズがあることも明らかなので、正直に人に接することを連想する。
⑦孚尹(ふいん)にして旁達するは、信なり。 ぼんやりとしていながら周りに光を放つので、コトバなどが信用されて伝わっていくのを連想する。
⑧気の白虹の如きは、天なり。 白い虹のような光を放っているので、天のすがたを連想する。
⑨精神の山川に見わるるは、地なり。 細やかな筋が山や川のように見えるので、地のすがたを連想する。
⑩珪璋の特に達するは、徳なり。 四角い玉、三角の玉は、特に(廟堂などに)選ばれていくので、人に徳があると選ばれることを連想する。
⑪天下に貴ばざる者莫(な)きは、道なり。 この世の中にそれを貴ばない者がいないので、同様に貴ばれている宇宙や社会の道理を連想する。
・・・ちょっと待ってください。「なぜ貴ぶか」と訊いているのに、何故「貴ばない者はいない」と同義反覆で答えるのですか。
―――おまえさん、「詩経」を読んでいないのか。その秦風・小戎にこういってるではありませんか。
言念君子、温其如玉。
言(われ)は君子を念(おも)う、温たること、それ玉の如し。
あたしは、あのステキな人のことばかり思っているのよ、あたたかくて、まるで玉のような人なのよ。
故君子貴之也。
故に君子はこれを貴ぶなり。
―――だからよき人はみな、玉を貴ぶものなのです。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「孔子家語」問玉篇より。この際、おカネを貴ぶのはもう止めては如何でしょうか。