未旬而死(いまだ旬ならずして死す)(「酉陽雑俎」)
今日はなんとか生き抜きました。喉元過ぎるとほっとしますね。だがこのままではあと十日もすればバクハツ・・・

とつげきブタだましいでやっつけてやるでぶー!!!
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唐の時代のことですが、秀才の李鵠という者が河南・潁川の令として赴任することになった。
夜至一駅。
夜、一駅に至る。
ある晩、とある官立宿場に到着。
そこで一泊することになった。
才臥、見物如猪者突上庁階。
わずかに臥すに、物の猪(ちょ)の如きものの、庁の階を突上するを見たり。
少しうとうとした時、なにやらブタのような変な怪物が、宿舎の入り口の石階をすごい勢いで登ってくるのが見えた。
「猪」は「イノシシ」のことではなく、「ブタ」そのもののことです。
鵠驚走、透後門投駅厩、潜身草積中。
鵠、驚き走り、後門を透りて駅の厩に投じ、身を草積中に潜ましむ。
李鵠は驚いて逃げ出し、宿舎の裏門から宿場の馬屋に飛び込み、飼い葉の積んである中に身を隠した。
屏息且伺之、怪亦随至、声繞草積数匝。
屏息してしばらくこれを伺うに、怪また随いて至り、声草積を繞ること数匝なり。
息を潜めてしばらく様子をうかがっていると、
ぶー、ぶー、ぶー・・・
怪物もまた後をつけて馬屋に入ってきたらしい。ぶーぶーいう声が飼い葉の周りを数回ぐるぐる回っている。
やがて鵠が潜んでいるすぐ前で立ち止まった。
ぶー!!!!!
怪物は草を押し退け、鵠の姿はあらわになった。ぶた怪物と李鵠は、
瞠目相視鵠所潜処。
瞠目して鵠を潜むところの処に相視せり。
身を隠していたところで、目をぎろりと見開いて、ともに相手を見つめたのである。
ぶー!!!!!!!!!!!!!!!
その瞬間だ。ぶた怪物は、
忽変為巨星。
忽ち変じて巨星に為れり。
突然、大きな星に変化した。
そして、爆発し、砕け散って、
騰起数道燭天。
数道に騰起して天を燭せり。
いくつかの光線に分かれて昇って行き、空を照らし出したのだ。
それはとても美しかった―――そうである。
しばらくして、
左右取燭索鵠于草積中、已卒矣。
左右燭を取りて鵠を草積中に索むるに、すでに卒せり。
おつきの者たちが灯火を手にして鵠を飼い葉の中に捜しに来て―――鵠を見つけたのだが、その時には、目を見開いたまま死んでいたのだった。
だが、安心してください。
半日方蘇、因説所見。
半日にしてまさに蘇り、因りて見るところを説く。
半日ほどしてから生き返って、そこで自分の見たことを話したのだ。
つまり、誰かが想像したことではなく、本当のことであったということだ。
それにしてもブタの怪物は一体どういう因縁があって李鵠を追い回したのであろうか。そして、星になって砕け散るとは、いったい何の怪物だったのか。
鵠はそれについては口にしなかったが、本人には何やら思い当たる節もあったようである。いずれにしても、
未旬、無病而死。
いまだ旬ならずして、病無くして死す。
その後十日も経たないうちに、特に病気も無かったのに突然死んでしまった。
ので、永遠に謎となった。
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唐・段成式「酉陽雑俎」続集巻一より。いったいなぜブタが襲ってきたのでしょうか。分かれば防ぎようもあるかも知れませんよ。もしわたしがブタに襲撃されたとしたら、おそらくあのことだろうなあ・・・。言おうかなあ、どうしようかなあ。十日ぐらいしたら言おうかなあ。