4月30日 みんな無事だといいのだが

衆皆無恙(衆みなつつがなし)(「皇華紀聞」)

みなさんよい週末を過ごせましたでしょうか。ツツガムシなどにやられてませんか。

来月もまたツラい人もいるかも知れませんが、なんとなく乗り切ろう!

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「勇敢な人」の話を聴くたびに、わたしは清の初めの人、把土魯(バートル)=勇者と称された頼塔拉(らいとうら)のことを思い出さずにいられない。

彼は満州人で、もとより勇猛を以て称されていたのであるが、順治年間、浙江や福建での南明政権との戦いでは、常に最前線にその姿を見ない戦闘は無い、とまで言われたのである。

そんな戦いの中、

一日、浴於渓。

一日、渓に浴す。

ある日、仲間と一緒に、渓谷を訪ねて水浴びをした。

ふと深みの方を見ると、

水底有物槎牙如古木。

水底に物の、槎牙(さが)として古木の如き有り。

水底に、ごつごつとして古い木が沈んでいるのかと思われるものがあるようであった。

「どうしてあんなものがここに沈んでいるのだろうか」

頼塔拉は、

呼儕輩縛以縄共引出之。

儕輩を呼んで縄を以て縛りて共にこれを引き出ださんとす。

仲間たちを呼び集めて、これを引き上げようと相談し、縄をその木のようなものに縛り付けて、

「えいやー」

とみんなで引き上げた。

すると、なんやら出てきました。

うわあっ!!!!!!!

則一龍首鬚鬣宛然。縛者乃其角。

則ち一龍の首、鬚・鬣宛然たり。縛れるものはすなわちその角なり。

出てきたのは龍の頭であった。ヒゲもタテガミもあり、縄を縛り付けて引っ張ったのは、角だったのだ。

龍は、すごい目で清兵たちを睨んだ。

「どひゃー」

衆皆驚走。頼神色不変、徐入水手解其縛。

衆みな驚き走る。頼は神色変ぜず、おもむろの水に入りてその縛を手解す。

みんなびっくりして逃げ出した。ところが、頼塔拉は顔色一つ変えずに、水の中に入って行くと、

「すまんすまん、起こしてしまったな」と詫びながら、

角に縛り付けた縄を手づからほどいてやった。

龍はしばらく頼を睨みつけていたが、

少頃雷雨晦冥、龍則騰空而去。

少頃にして雷雨し晦冥し、龍はすなわち空に騰がり去れり。

しばらくすると激しいカミナリを伴った雨が降り出し、あたり一面に真っ暗になって、龍は空に飛び上がって、(雲に隠れて)どこかに行ってしまった。

やがて、雨が上がり、雲も晴れて、また明るい陽射しが戻ってまいりました。

衆皆無恙。

衆、みな恙無し。

みんな無事でした。

頼だけが水辺に立っていて、戻ってきた同僚たちに、

「すごいやつだったな」

と言って笑ったのであった。

人更称為縛龍把土魯。

人更に称して「縛龍把土魯」と為せり。

ひとびとは称号をさらに一歩進めて、「ドラゴン縛りのバートル(勇者)」と呼ぶようになった。

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清・漁洋山人・王士禎「皇華記聞」(「古今筆記精華録」巻十五所収)より。清一代の正統な文学を構築したといわれる王漁洋の著述ですから、ほんとのことだと思います。それにしても男目線の非難すべき内容ですが、時代的背景を顧慮して原文のまま紹介したものである。ジェンダーがフリーではない劣った時代があったのですから仕方ありません。

みなさん、この四月の間、ツツガムシ・・・のような怖ろしいやつはともかく、その他の災いからも無事過ごせましたでしょうか。おいらはツツガムシのようなやつにやられかけましたが大丈夫です。うまく見つからずにやり過ごせた感じです。戻ってくるといけないので大人しくしています。

なお、四月の大望は達成したもよう。

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