便便経笥(便便として経笥あり)(「棲霞閣野乗」)
おなかがどんどん肥ってくる。

いかにすぐれた武将であってもビール腹のやつはいたと思うのである。
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清・道光己亥年(1839)、順天府で行われた試験で、
有携瓶酒入者。
瓶の酒の入るを携うる者有り。
酒の入った瓶を持ち来もうとしたやつがいた。
監捜者呵、曰去酒。
監捜者、呵して、曰く、酒を去れ、と。
試験監督官はえらい怒って、「酒は持ち込むな」と怒鳴った。
すると、その男、
輒飲尽而揮棄其余瀝。
すなわち飲み尽くして、その余瀝を揮い棄つ。
一気に一瓶の酒を飲み尽くしてしまい、残りは瓶をさかさまに振って捨ててしまった。
監者怒。
監者怒れり。
監督官はさらに怒った。
「飲み尽くせと言っているのではなくて持ち込むなと言ったのだ!」
「そうでしたかな」
その男は平然たるものであった。
そこで、監督官は、
命悉索之、破筆硯、毀衣披、無所得。
命じて悉くこれを索さしめ、筆硯へ破り、衣披を毀つも得るところ無し。
部下に命じて、男がカンニングペーパーを持ち込んでいないか、全身をくまなく調べさせた。筆箱や硯石を壊し、着ているものを引き裂いたりしたが、何も出て来ない。
男は、
捫腹曰、是中便便経笥、若輩豈能捜耶。
腹を捫(な)でて曰く、「この中便便たる経笥なり、なんじが輩あによく捜さんや」と。
おなかをさすりながら、言った、
「この中には、ぱんぱんになるまで古典が詰まっている本箱があるんだが、おまえさんたちに捜し当てることができるかなあ、はーあ、ぽんぽん」
と。
「便便」は腹が膨れあがっているようす。
「後漢書」辺詔伝に曰く、
辺孝先腹便便。
辺孝先、腹便便たり。
辺孝先は、おなかがぱんぱんに太っていた。
という古典の知識まで披露して、からかわれたのだ。
監督者はさらに怒り、あちこち探し回って、ついに
摭筆嚢中片紙。
筆嚢中に片紙を摭(ひろ)う。
筆袋の中に、小さな紙くずが一きれ入っていたのを見つけ出した。
そして、
謾曰此懐挟也。送刑部。
謾(そぞ)ろに曰く、これ懐挟なり、と。刑部に送る。
ゆっくりと発表した。「これこそカンニングペーパーなり」と。男を捕えて検察に送った。
讞白其枉、然竟坐擯斥。
その枉を讞白するも、然るについに擯斥に坐せり。
これは冤罪だと訴えたので、刑罰は免れたが、最終的に試験の受験資格を奪われたのであった。
この男は、
淵博無涯、然狂放使気。
淵博涯無く、然るに狂放して気を使う。
智識の広さははてしないが、狂人のように気ままに振る舞ってエネルギーを発散する。
とうたわれた張石洲先生のことであるという。
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清・孫静安「棲霞閣野乗」より。わしも腹の中に、おそらく真理か真実が溜まってきておるのです。どんどん苦しくなってくる。こちらでもおにぎりとサンドイッチとあと二三しか食べてないのになあ。確かにお昼は食べすぎ、午後もむしゃむしゃスナック菓子食ったが・・・。