龍王造宮(龍王宮を造る)(「五雑組」)
そこそこ賢い、と思うこともあるのですが。

龍はあんまり動かないんで、体積あたりの環境負荷低いんでリュー。(←ほんとに?)
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蘇州東入海五六日程、有小島、闊百里余。
蘇州の東、海に入りて五六日程に、小島有りて、闊(ひろ)さ百里余なり。
蘇州の東に、海に入って五六日も航海したあたりに、小さな島(といっても幅50~60キロぐらいの)がある。
現代の地図を広げても、どこだかわかりませんが、むかしはあったのでしょう。
四面海水皆濁、独此水清、無風而浪高数丈、常見水上紅光如日、舟人不敢近。
四面の海水みな濁れるに、独りこの水のみ清く、風無くして浪高きこと数丈、常に水上に紅光の日の如きを見、舟人あえて近づかず。
そのあたり一帯の海水はすべて濁っているのに、この島の周囲だけは澄んでいて、風は無いのに波の高さは10メートル弱にもなる。常に海面の上に太陽のような赤い光球が浮かんでいて、船乗りたちはそこに近づこうとはしない。
これは何でしょうか。
海底火山かも知れんと思いましたが、船乗りたちが言うには、
此龍王宮也。
これ、龍王宮なり。
「あすこは、龍王さまの宮殿なのでっさあ」
と。
まあ、これはありうることかも知れない。(←ほんとに?)
西北塞外人迹不到之処、不時聞数千人斫樹拽木之声。
西北の塞外、人迹到らざるの処に、時ならずして数千人の樹を斫(き)り木を拽くの声を聞くことあり。
西北方面の国境の砦を越えたさらに向こう、人間がまず行くことのない辺境の地に、突然、数千人の人が木を伐り運び出す声が聞こえることがあるという。
その現象のあとで、
及明、遠視山木一空。
明に及びて、遠視するに山木一空す。
翌朝になって、遠く見渡してみると、山に一本の木も無くなっているのだ。
辺境民たちと話すと、彼らが言うには、
海龍王造宮也。
海龍王の宮を造れるなり。
「海中の龍王さまが宮殿を御造営になられましたのじゃろ」
と。
これはおかしいのではないか。
余謂龍以水為居、豈復有宮。即有之、亦当鮫宇貝闕、必不藉人間之木殖也。
余謂う、龍は水を以て居と為すに、あにまた宮有らんや。即(もし)これ有りとせば、またまさに鮫宇貝闕にして、必ずや人間の木殖を藉らざらん。
わたしが思うに、龍は水中を棲み処としているのだから、どうして特別な住居を造営することがあるだろうか。それに、もしそういうものを造ることがあるにしても、サメの皮や貝ガラを屋根や壁にするであろう。地上世界から木材を持って行くということがあるはずがない。
みなさんもそう思いますよね。
しかるに、
愚俗之不経、一至于此。
愚俗の経ならざる、一にここに至れり。
オロカな俗人どもの常識外れさは、こんなことまで言い出すに至っているのである。
ああ、なさけないなあ。
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明・謝肇淛「五雑組」巻之四より。サメの皮や貝殻で屋根や壁になるのですから、新聞紙の服、ビニール袋のずぼんでも十分です。
それにしても、ほんとに愚俗は何を仕出かすかわかりません。自分の経験で言うのですから間違いありません。マスメディアよりは少し賢いぐらいでしかないぐらいオロカです。いや、買いかぶり過ぎか。同じぐらいかも知れませんね。