贈汝以車(汝に贈るに車を以てせん)(「孔子家語」)
スポーツの日ですが、寒くなってまいりました。冬を乗り切るには強靭な心身と暖房器具と服が必要である。脂肪は不必要である。

競争に勝とうという精神力を育てることが重要である?
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もう二千五百年ぐらい前のことですが、
子路将行、辞於孔子。
子路まさに行かんとして、孔子に辞す。
孔子の弟子の子路が仕官に出かけるというので、孔子のところに暇乞いに来た。
孔子はおっしゃった、
予贈汝以車乎、贈汝以言乎。
予、汝に贈るに車を以てせんか、汝に贈るに言を以てせんか。
「わたしは、おまえへの餞別に車を贈ることにしようか。それともおまえへの餞別に「ことば」を贈ることにしようか」
「そんなことも自分で決められないのですか?」
と言ってはいけません。これはそういう措辞、ものの言い方、というものです。
それにしても、1960年代なら、スポーツ大会優勝とかオールスター最高殊勲選手賞に車がもらえる! ということもあったかも知れませんが、現代的にはもう時代錯誤の感があります。まあ換金できるなら現金と同じか。
もらうなら旅行券とか食事券とか株式とか金屏風など美術品じゃないですかね。「ことば」なんかもらってもなあ・・・。
ところが、
子路曰、請以言。
子路曰く、請う、言を以てせられんことを。
子路は言った、「それでは「ことば」を贈っていただければ、と思います」と。
「ことば」は無料ですよ! なんでもおカネで測るこの世の中で無料のものとは得しない、ということは徳がない・・・。
子路が無料のものを選んだからほっとした・・・かどうかわかりませんが、孔子曰く、
不強不達。不労無功。不忠無親。不信無復。不恭失礼。慎此五者而已。
強ならざれば達せず。労せずんば功無し。忠ならざれば親無し。信ならざれば復する無し。恭しからざれば礼を失う。この五者を慎まんのみ。
強靭な心を以てやらなければ、やりとげることはできない。
苦労しなければ、功績はあがらない。
人に真心を尽くさなければ、親しい人はできない。
信頼されなければ、二度目は無い。
恭順な気持ちを持たなければ、礼儀はずれになってしまう。
「仕官においては、この「強・労・忠・信・恭」の五つのことだけを考えることじゃ。それ以外のことは、まあ放っておいてもよろしい」
子路は言った、
由請終身奉之。敢問。
由、請う、終身これを奉じんことを。敢えて問う。
「ありがとうございます。わたくし由(ゆう。子路の名前)は、今のおことばを一生守っていきたいと思います。先生、せっかくだから(ついでに)教えてください。
親交取親若何。言寡可行若何。長為善事而無犯若何。
親交して親しきを取るは若何(いかん)。言寡にして行うべきはいかん。長く善事を為してしかも犯す無きはいかん。
交際して親しくしていくには、どうすればよろしいでしょうか。
言論では主張せずにどんどん実行していくには、どうすればよろしいでしょうか。
長期にわたって立派な事業を行いながら、批判されるようなことをしないには、どうすればよろしいでしょうか」
孔子はおっしゃった。
汝所問、也在五者中矣。親交取親、其忠也。言寡可行、其信也。長為善事而無犯、其礼也。
汝の問うところは、也(また)五者の中に在り。親交親を取るはそれ忠なり。言寡にして行うべきはそれ信なり。長く善事を為して犯す無きはそれ礼なり。
「おまえの訊いていることは、さっきの五つのことの中に入っているではないか。
交際して親しくしていくには、真心を尽くして付き合うことじゃ。
言論では主張せずにどんどん実行していくには、信頼されることが必要じゃ。
長期にわたって立派な事業を行いながら、批判されるようなことをしないには、社会規範である礼儀を外れることのないようにしなされや」
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「孔子家語」子路初見第十九より。後半は少しわかりづらいですね。しかし、前半で孔子が挙げる「五つの事項」は勉強になります。・・・なりませんか。
なお、「子路初見」でもうお暇乞いですか、と思うかも知れませんが、初めて会ったときのことはこの前の章にあります。子路が長い刀と派手な服装で孔子を脅しに来たその時のことは、中島敦さんの「弟子」にかっこよく書かれているので、そちらを参照くだされや。