不欺為先(欺かざるを先と為す)(「青箱雑記」)
ふらふらせずにマジメにやらないといけません。

上司は見てなくても、えんまさまは見ておられますよ。
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北宋・仁宗(在位1022~63)のときの宰相・陳執中は、毀誉も褒貶もある人ですが、
作相、有婿求差遣。
相と作るに、婿の差遣を求むる有り。
宰相となったとき、娘婿の一人が、どこかの地方官に派遣してほしいと頼んできた。
陳執中は言った、
官職是国家的、非臥房籠筐中物、婿安得有之。
官職はこれ国家的なり、臥房の籠筐中の物にあらず、婿いずくんぞこれを有するを得んや。
「官職は国家のものじゃ。寝室のカゴや道具箱の中にあるものではない。婿どのにどうして差し上げることができようか」
竟不与。
ついに与えず。
とうとう与えなかった。
という人柄であった。
融通を利かさず、妥協するタイプでは無かったので、政敵はかなりいた。
諫官累言執中不学無術、非宰相器、而仁宗注意愈堅。
諫官、執中不学にして無術、宰相の器にあらずと累言するも、仁宗注意すること愈いよ堅し。
諫言を担当する役人が、何度も
「執中めは学問も無く技術も無く、宰相の器とは言えません」
と諫言したが、仁宗皇帝は彼をいよいよ堅く信頼したのであった。
諫官は、ついにこんなことまで言い出した。
陛下所以眷執中不替者、得非以執中嘗於先朝乞立陛下為太子耶。且先帝止二子、而周王已薨、立嗣非陛下而誰。
陛下の執中を眷(かえりみ)られ替えざる所以のものは、得て執中の嘗て先朝において陛下を太子に立つるを乞えるを以てするにあらずや。まさに先帝ただ二子、而して周王すでに薨ぜらる、立嗣は陛下にあらざれば誰ぞや。
「陛下が執中めを信頼せられて交代させようとなさらない理由は、もしかしたら、執中が先代の真宗皇帝の時に、陛下を太子にするよう請うた、というウワサに気を使っておられるからではございませんか。確かに先帝にはお二人だけ皇子がおられましたが、先帝が皇太子をお決めになったときには、もうご兄弟の周王さまはお亡くなりあそばされておりました。跡継ぎは陛下以外におられなかったのです。
ですから、
執中何足眷。
執中、何ぞ眷みるに足らん。
執中など、信頼するには及びませぬ!」
あわわ。皇帝の即位に関する話を公言するなど、他の王朝なら首が飛ぶだけでなく、本人はすごい痛い死刑、一族や友人みんな死刑、になるようなことですが、宋代、特に仁宗の治世はこんなことを言うことができたのです。だが、ホントに大丈夫か!?
仁宗は静かに喩すように言った。
非為是。但執中不欺朕耳。
これがために在らず。ただ執中、朕を欺かざるのみ。
「そんなことのせいではない。ただ、執中はわしにウソをつかない、というだけだ」
と。
ああよかったー。
さて、
然則人臣事主、宜以不欺為先。
然ればすなわち人臣の主に事(つか)うる、よろしく欺かざるを以て先と為すべきなり。
これでおわかりかと思いますが、臣下が主君にお仕えにするに当たっては、ウソをつかないことを第一にすべきであります。
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宋・呉処厚「青箱雑記」巻二より。人間、いろんなところで自分を守ったり飾ったりしてしまうものです。要らんウソをいくつもつくもの。明日から御出勤のみなさん、一日上司を欺かないで過ごしてみてください。まずムリです。もし出来たら、次はご家族にもウソをつかないでみてください。これは想像しただけでムリですよね???
陳執中についてはこんな話も伝わっています。(上掲同書)
好閲人、而解賓王最受知。初為登州黄県令、素不相識。執中一見、即大用、勅挙京官。
閲人を好み、而して解賓王(かい・ひんのう)最も知を受く。初め登州黄県令と為り、もと相識らず。執中一見、即ち大用し、勅して京官に挙ぐ。
人を見て人材を発掘するのが得意であった。中でも最も引き上げられたのが、解賓王である。解は、最初、山東の黄県の知事であったが、それまで何の面識もなかったのに、一見して、「これは見どころがあるぞ」と大いに用いることとし、即座に皇帝の名前で中央省庁に出世させた。
解賓王は陳執中の死後、最終的には工部侍郎(営繕局次長)の職で致仕し、たいへんに出世したというわけではないが、
家雄富、諸子皆京秩、年七十余卒。
家、雄富に、諸子みな京秩、年七十余にして卒す。
その家は富み栄え、子どもたちは全員中央で給料をもらい、自分は七十いくつまで生きて亡くなった。
確かに大いに見どころのあるひとであったのだ。
どういうところが見どころであったのであろうか。
為人方頤、大口、敦寵重厚、左足下有黒子、甚明大。
人となり方頤にして大口、敦寵重厚、左足の下に黒子ありて、甚だ明大なり。
その容貌は、顎が四角張って、口がでかかった。人を篤く愛し、また重々しくて厚ぼったい、左足の下の方にほくろがあり、これがでかくて目立った。
ということですから、まずはあごが四角。そして口がでかい。人間性や能力に自信が無ければ、これでいくしかありません。