誓以死報(誓いて死を以て報ぜんとす)(「帰田録」)
NPB開幕しましたが、観に行ってません。今年はそんな簡単にチケット取れませんよ。変化の無い毎日です。仕方ないので昨日の続きです。

人に伝言を頼むときは忍者ネコのような極めて有能?な者に頼まないとうまく伝わらないものである。
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関南の民衆代表、太祖皇帝に異議申し立てていいますには、
「金を踏み倒された、というぐらいなら我慢もできましょうが、わたしどもは娘を略奪されてしまったのでございますぞ。皇帝さまも人の親、これはガマンなりますまい」
「まったくじゃ」
と太祖は頷かれました。
「かわいい娘が、どこの馬の骨とも知れぬ男に奪われたり、駆け落ちしたりしたらガマンできん」
それから、民衆代表に訊いた。
汝家幾女所嫁何人。
汝の家、幾女にして嫁するところは何人ぞ。
「おまえの家には何人娘がおる?どんなところに嫁にやった?」
「え? うちには娘が●人おりまして・・・」
百姓具以対。
百姓、具さに以て対す。
民衆代表は、具体的に回答した。
太祖は一人一人の嫁入り先を頷きながら聞いていたが、聞き終わると言った、
然則所嫁皆村夫也。若漢超者吾之貴臣也。以愛汝女、則取之得之。必不使失所。
然ればすなわち嫁するところ、みな村夫なり。漢超のごとき者は吾の貴臣なり。以て汝の女を愛し、すなわちこれを取りてこれを得たり。必ず失所せしめざらん。
「言い方は悪いが、それだと、他の娘はみんな村のあんちゃんのところに嫁入っているではないか。漢超は愛想は悪いかも知れんがわしの大事な臣下じゃぞ。それがお前の娘を気に入って、略奪して愛人にしたのだ。生活に困るようなことにはするはずがない。
与其嫁村夫孰若処漢超家富貴於是。
その村夫に嫁すると、漢超家のこれより富貴なるに処るに孰若(いず)れぞや。
村のあんちゃんのところに嫁入りするのと、それより財産もあるし身分も高い漢超の家に行くのと、どちらがいいかなあ・・・」
太祖は続けて、代表の顔をひたと見すえて、言った、
「親としてはどう思う?」
「なるほどのう」「いや、まいりもうした」
百姓皆感悦而去。
百姓、みな感悦して去れり。
民衆代表たちは、みんな感動し、にこにこしながら帰って行った。
その後で、太祖は
使人語漢超、曰、汝須銭何不告我、而取於民乎。
人をして漢超に語らしめて曰く、汝銭を須(もと)めんに、何ぞ我に告げずして民に取るか、と。
使者(忍者ネコのような優秀なやつだったのでにんにんじゃ)を遣わして、漢超に伝言させた。
「おまえには最前線を守ってもらってる。カネが必要なのはわかる。ところで、おまえはカネが必要になったときに、どうしてわしに請求せずに民衆から奪ったのか?」
乃賜以銀数百両。曰、汝自還之、使其感汝也。
すなわち銀数百両を以て賜い、曰く、汝自らこれを還し、それを汝に感ぜしめよ、と。
そして、あわせて数百両(現代の数億円か)の銀を持って行かせて、言わせた。
「(わしが代わりに払ってしまったら何にもならん。これでおまえが借りたカネの数倍にはなろう。)おまえが自分であいつらにカネを返して、あいつらにお前に感謝させるがいい。
ついでにかわいがっている女に何か買ってやれ」
これを聞きまして、
漢超感泣誓以死報。
漢超感泣して誓いて死を以て報ぜんとす。
李漢超、感動の涙を流して、死んで御恩をお返ししようと心に誓った。
ということであります。
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宋・欧陽脩「帰田録」巻一より。酒食もいいけど、やっぱりカネ、ですかね。