入懐未穏(懐に入るるもいまだ穏ならず)(「宋稗類鈔」)
なかなか穏やかになりませんね。次はテヘラン? グリーンランドも? そんな海外のこと心配しているヒマがあったら、あと四日も出勤しなければならないことを心配しろ、とお叱りも受け、平謝りするしかなさそうな、ちんたらした一日目でした。申し訳ありません。

ちんたらしているとは怪しからん。まあ、今日のところはまだ松の内、堪忍してお年玉だ。
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南宋の名臣といわれる劉光祖は、
平生好施、不顧有無、来謁者皆周之。
平生より施しを好み、有無を顧みずして、来謁者はみなこれに周す。
普段から人にいろんなものを与えるのが好きで、自分が持っているかいないかに関わらず、会いに来てくれた人には誰にでも奉仕するのであった。
一日晨坐暖閣、夫人方梳沐、有旧友来訪、公令夫人入内。
一日、晨、暖閣に坐し、夫人まさに梳沐するに、旧友の来訪する有りて、公、夫人をして内に入らしむ。
ある日の午前中、暖房のある部屋で、奥さんに髪を洗ってもらっていたところ、むかしからの友人が訪ねてきてくれたというので、劉公は奥さんを促して、奥の部屋に隠れさせた。
夫人従窗隙中見士人拾所遺釵、入懐未穏。
夫人、窗隙中より士人の遺るるところの釵(さ)を拾いて、懐に入るるもいまだ穏ならざるを見る。
奥さんは、だんなに引っ張られて奥の部屋に行く途中、窓の隙間から、自分が置き忘れてきたかんざしを、入ってきたさむらいふうの男が拾い、(誰も見てないのを確認して)ふところに入れてしまったが、すぐにはうまく入らないのでもそもそしているのが目に入った。
「しばらく待っておれ」
公将出、夫人掣公衣袖止之。
公、まさに出でんとするに、夫人、公の衣の袖を掣(ひ)きてこれを止どむ。
だんなが髪を拭いて客のところに行こうとするのを、奥さんは袖を引っ張って止めた。
「なにをするんじゃ?」
「おほほほー」
少頃、公乃出。
少頃、公すなわち出づ。
しばらくすると奥さんが袖を放してくれたので、公は応接に出て行った。
・・・しばらく歓談・・・
客退、問其故。
客退き、その故を問う。
お客が帰った後、劉は何故袖を引っ張ったのか訊いた。
夫人曰、偶遺小釵、彼方収拾未穏。士貧、得之可以少済、不欲遽恐之耳。
夫人曰く、たまたま小釵を遺(わす)るるに、彼まさに収拾していまだ穏ならず。士の貧なる、これを得れば以て少済すべく、遽(にわ)かにしてこれを恐れしむるを欲せざるのみ、と。
奥さんが言うには、
「ちょっと小さなかんざしを忘れて来ましたところ、あの方がちょうどお拾いになって、まだもそもそしておられましたので。さむらいが不如意である時は、それが分かれば少しでも助けてあげなければなりません。突然あなたがお出でになられて、驚かせてはいけないと思っただけでございます」
と。
―――ようやった、それでこそ我が女房じゃ。
と言ったとは記載がないのですが、公はその日一日、たいへんご機嫌であったという。
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清・潘永因編「宋稗類鈔」巻三「厚徳」篇より。どう評価しますかね。
ア)「上級国民怪しからん、わしらを監視しているのか」とかみついてみる。
イ)「カネのことを気にしないとは、まだ原始的な資本主義だ、新自由主義が行きわたっていないのだ」と嘆いてみる。
ウ)「だんなにも黙っててやればいいのに、気の利かない女房だぜ」と倫理的に批判して優位に立ってみる。
そんなことより、なんだか似た者夫婦なのが微笑ましくていいではありませんか。新年早々お客があったらこんなふうに暖かに接していただきたいところです。より平等な政策で経済よくなるかも知れませんし。
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