極誠無妄(極誠にして妄り無し)(「草木子」)
明日は寒いみたいですね。朝起きるのムリでしょう。いよいよ「体調悪い」を使うか。

物価高対策にはケーキを食べればいいじゃないの。七面鳥が無いならカモ食えばいいじゃないの。
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元の世祖(フビライ=ハーンといった方がわかりやすいですよね)は河北を平定すると、謀臣・劉秉忠に京城・大都を築くことを命じた。今の北京である。
宮城の予定地に基礎を築くために地面を掘り下げたところ、
得一巨穴。内有紅頭虫、不知其幾万。
一巨穴を得たり。内に紅頭の虫有りて、その幾万なるかを知らず。
ぼこん、と大きな穴が開いた。その中には、頭の赤いアリのようなムシが何万匹と数えきれないぐらい、うごめていた。
うひゃあ。うじゃうじゃと蠢いております。われわれ常人なら気持ち悪くて逃げ出すところですが、さすがはフビライである。わざわざその様子を見に行って、劉秉忠に訊いた、
此何祥也。
これ、何の祥なりや。
「(太保どのはいつもあれが何の予兆だから気をつけろとうるさいが)これはどういうことの予兆かな?」
劉は答えた、
異日亡天下者、乃此物也。
異日天下を亡うものは、すなわちこの物ならん。
「(宮城の基礎を食い荒らすのですから)いつか元帝国が天下をうしなう時には、この虫たちが原因となることでしょう」
元の滅亡の原因となった「紅巾の賊」を予言した―――という、劉秉忠の神がかった能力を伝える伝説なのですが、このお話には続きがあります。
フビライは「そうか」と頷いて言った、
天下無不敗之家、無不亡之国。朕之天下、後当誰得之。
天下に不敗の家無く、不亡の国無し。朕の天下、後に誰のこれを得べきや。
「この世に廃滅しない家系も無ければ、亡びることのない国家も無いからな。(それはしようがない。)ところで、今わしの手の中にあるこの天下は、やがていったいどういう者が手にすることになるのであろうなあ」
(ああもうめんどくさい人だなあ)
と劉秉忠は思ったのかどうか知りませんが、この際、何かの忠告をしておこうと思ったのでしょう、彼は答えた。
西方之人得之。
西方の人、これを得ん。
「西の方の誰か、でしょうな、陛下の天下を奪い取るのは」
これは後の歴史を見ると予想外れでした。実際には明の朱元璋だった。だが、劉はフビライの弟、イランに巨大な帝国を気づきつつあるフラグ=ハーンか、その子孫に留意せよ、と言いたかったのかも知れません。なにより漢民族が弾圧されないように、「漢民族ではありません」と言っておきたかったのかも知れない。
フビライは別の事を考えた。
世祖以八思麻帝師有功、佐平天下、意其類当代有天下、思為子孫長久計。
世祖、八思麻(はちしま=パスパ)帝師の功有り、天下を平らぐを佐(たす)けしを以て、その類のまさに代わって天下を有すべきならんと意(おも)い、子孫のために長久の計を思えり。
フビライは、チベット系の僧侶・帝師パスパが、天下を平らげるのにいろんな功績があったことから、彼の仲間(チベット僧)がモンゴルに代わって天下を取るのではないかと考えた。そうすると、自分の子孫のために、遠い将来を見据えた工作をしておいてやらねばと思ったのである。
ここにおいて、帝は、
尊其爵至於一人之下万人之上、豊其養至於東南数十郡之財不足以資之、隆其礼至於王公妃主皆拝伏如奴隷。甚而為授記、藉地以髪、摩頂以足。
その爵を尊びて一人の下万人の上に至らしめ、その養いを豊かにして東南数十郡の財の以てこれに資するに足らざるに至らしめ、その礼を隆くして王公妃主のみな拝伏すること奴隷の如きに至らしむ。甚だしくして授記を為し、地に藉(し)くに髪を以てし、頂を摩するに足を以てせり。
パスパの爵位を上げて、皇帝一人よりは下、その他のあらゆる人より上の地位にした。給与を豊かにして、中国東南部の最も豊かな地方数十郡から得られる財物を彼に与えてもまだ足らないぐらいにした。彼への儀礼をすごく高めて、王・公爵・お妃・内親王でさえみな奴隷のように土下座するようにした。これほどの地位にしたうえで、そのことを将来にわたって約束する文書を作って交付したのである。
パスパが座る時には皇族の髪の毛を敷物にしていただき、パスパの足で自分たちの頭をこすっていただくのであった。
なぜこんなことをしたかというと、
欲陰損其福、而泄其気。蓋所以虚隆其至貴之礼、冀陰消其天下之福。
陰にその福を損ない、その気を泄さしめんと欲すなり。けだし、その至貴の礼を虚隆する所以は、その天下の福を陰に消さんことを冀(ねが)うなり。
表だたぬようにその福禄を損なって、天下を得るような気を「ぷすう」と漏らして抜いてしまおうとしたのである。至って尊い儀礼を意味も無くさらに高くした理由は、天下を得ようという福禄を、目に見えないうちに消してしまおうという狙いだったのだ。
このあたりは、われわれ島国の人間には理解できない大陸的な深謀遠慮ですね。
やがてパスパが死ぬと、
西方再請一人以襲其位。事之一遵其制。其所以待之如此者。
西方、一人を以てその位を襲わんことを再請せり。これに事うるに一にその制に遵う。それ、これを待つことかくの如き所以のものなり。
西方のチベットからは、次の後継者を立てて、彼にもパスパのような地位を与えるよう請求してきた。フビライはそいつも同じように尊ぶよう命じた。そのような待遇をした理由は、まさにパスパを優遇したのと同じ理由である。
もちろん代わった者は、パスパのような能力も知識もない。
(どうやらだいぶん「気」が漏れたようじゃな)
と、フビライは一人ほくそ笑み、安心したのであった。ああ、だが、
豈知暦数不可虚邀福禄為彼之妄得。
あに知らんや、暦数の虚しく福禄の彼の妄りに得るを為すを邀(むか)うべからざるを。
この作者(葉子奇)らしい、難しい構文ですね。
どうして彼は知っていたであろうか(いや、知らなかったのだ)。天の与える運命は、彼が幸福と財産を好き勝手に得ようとしても、それを許容するものではない、ということを。
というような意味でしょうか。
もともと、
達達即韃靼。耶律即契丹。大金即完顔氏。生達達自虎林田地来。其性至実、無一毫之偽。而上天以宇宙畀之。而不畀之他部族。
達達(たつたつ)は即ち韃靼(だったん)なり。耶律(やりつ)は即ち契丹(きったん)なり。大金は即ち完顔氏なり。生達達は虎林田の地より来たる。その性至りて実、一毫の偽り無し。而して上天は宇宙を以てこれに畀(ひ)す。これを他部族に畀せず。
「畀」(ひ)は、「与える」。
タルタルはダッタン、すなわちモンゴル族である。ヤーリー族がキタイ国を建てた。大金帝国はワンヤン族が作ったのである。純粋なタルタルは、カラコルムの地からやって来たのだ。その民族性は至って朴実、一本の毛ほどの偽り心も無かった。そして、天道さまは宇宙すべてをこの民族に与えたのである。それ以外の民族には(中国の北半分しか)与えなかった。
其故何哉。
その故は何ぞや。
その理由はなんであろうか。
豈不以其極誠而無妄。聖賢伝心之学也。
あにその極誠にして妄り無きを以てするにあらずや。聖賢の伝心の学なり。
モンゴル族が極めて誠実で、偽りなく行動したからではないのか。よく考えると、それ(誠実で偽りなくあれ)こそ、虞や舜以来のチャイナの聖人賢者たちが、心から心へと伝えてきた真理ではないか。
なるほど。
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元・葉子奇「草木子」巻四下「雑俎篇」より。冬至も過ぎて一陽来復、だんだん春になってまいります。やっぱり我々日本人の得意である誠実で偽り無き精神でがんばれば、日本も世界もこれからよくなってくるんですよ。〇市さんに従って、今だけ、カネだけ、自分だけ、のグローバリズムを乗り越えればいいはずだ!!!
・・・と思うのですが、実は最近の世の中の動きはあまりよくわかりません。〇市さんとかどんな政策なのかな。テレビ新聞など読まないので、岡本全勝さんのHPだけが頼りだったんですが、今日もどうせ更新はされてないんだろうなあ。ホントは技術的な問題ではなくて、あに知らずや、めんどくさくて更新してないだけであるかも知れませんぞ。確認するのもめんどくさくなってきた。みなさんここをクリックして自分で確認してみてください。
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