以荷薦肉(以て薦肉を荷なう)(「語林」)
そろそろネコのところにエサ持っていかないと・・・。ネコのエサは不味いのでもう食わないことにしているのですが、ふつうは食べ物を持っているとたとえ腹いっぱいでも食ってしまうものです。だが、後漢の時代にはわざわざ肉を背負って持って来て薦めてくれる人もいたようです。

「月まで来たんならお茶でも飲んでいきーや。甘露は無いでよ」
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後漢のころ、河南から安徽にかけての地方に、鄭敬、字・次都というひとがいた。もとは地方の郡政府の役人をしていたらしいのですが、
去吏隠居蟻坡之陽。
吏を去りて蟻坡の陽に隠居せり。
役所を辞めて、蟻坡といわれる大きな堤防の南側に隠居していた。
隠居して何をしていたかというと、
釣於大沢。
大沢に釣せり。
大きな湿地帯で釣りをしていた。
なんのために釣りをしていたのか。生業のためであろうか。そうではなかった。「汝南先賢伝」という本によれば、
以漁釣自娯、弾琴詠詩、常方坐於坡側。随杞柳之蔭、舖茅蘼為席。
漁釣を以て自ら娯しみ、琴を弾じ詩を詠じ、常に坡側に方坐す。杞柳の蔭に随い、茅靡を舖きて席と為せり。
魚釣りをして楽しんでいたのである。また、琴を弾き、詩を歌っていた。いつも堤防の側にきちんと坐り、こぶ柳の木陰を選び、茅を敷いてむしろにしていた。
そこへ、
同郡鄧敬、以荷薦肉、瓠瓢盈酒、言談彌日。
同郡の鄧敬、以て薦肉を荷ない、瓠瓢酒を盈たして、言談日に彌(わた)れり。
同じ郡の鄧敬というものが、おつまみ用の肉を背負い、瓢箪に酒を満たしてやってきて、一日中何かたわいもないことを話していくのであった。
やがて鄧敬が帰ると、鄭敬も釣道具を片づけて、
蓬廬蓽門、琴書自娯。
蓬廬・蓽門に、琴書して自ら娯しめり。
ヨモギで屋根を葺き、イバラで門を作った自分の庵に帰って、琴を弾いたり書物を読んだりしてひとりで楽しんでいた。
かつて役所勤めをしていたとき、
庁前樹時有清汁。以為甘露。
庁前の樹、時に清汁有り。以て甘露と為さんとす。
役所の前の木から、ある時、透明な樹液が出てきた。舐めてみると甘かったので、瑞祥である「甘露」だとして、朝廷に報告しようとした。
報告書の在り方やら何やらで大騒ぎしているとき、鄭敬は全職員に聞こえるように大きな声で、知事に向かって言った。
明府政未能致甘露。此青木汁耳。
明府の政、いまだよく甘露を致さず。これ青木の汁なるのみ。
「知事殿の政治では、まだ甘露が出るはずはございませんぞ。これは単なる青い木の樹液でござる」
と。
「なんだと!」
「ほんとうのことを言うな!」
と睨まれたので、そのまま辞職してしまったのであるという。
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明・何良俊「語林」巻二十「清逸」十二より。ほんとのこと言ってはいけませんでしたね。まあでもホントのことを言ったら、苦笑して「黙っておいてくれよ」と頭を下げるのではなく怒ってきた、というのでは、ふつう辞めますよね。みなさんはどうですか。
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