同僚訝之(同僚、これを訝しむ)(「倦游雑録」)
仕事をしても批判されることがあります。

防備を優先すべきでアラシ。打って出るとはオロカなるラシ。
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宋の時代、官吏の不正や非法を暴くことを掌る御史台には、一つの不文律があった。
凡御史上事、一百日不言、罷為外官。
およそ御史上に事うるに、一百日言わざれば、罷めて外官と為す。
独立官であ(り、上司がいない立場であ)る御史の仕事の仕方として、百日に一回以上は上奏して問題点を指摘しなければならない。その期限を過ぎたら、罷免されて地方勤めに出される。
ところが、新たに侍御史となった王平は、
拝命垂満百日、而未言事。同僚皆訝之。
拝命より満百日に垂(なんな)んとするに、いまだ事を言わず。同僚、みなこれを訝(いぶか)れり。
任命されてからそろそろ百日になろうとするのに、いまだ一度も上奏して問題点の指摘をしていなかった。同僚たちはその態度に疑問を持った。
「このままでは罷免だぞ」
「不文律を知らないのではあるまいな」
「それは任官の時にきちんと話した」
「そもそも長くこの仕事をやる気はないのでは」
同僚の一人が言った、
端公有待而発。苟言之、必大事也。
端公、待つ有りて発す。いやしくもこれを言わば、必ずや大事ならん。
「彼は(小さなことではなく)何か価値のあることを待って、発言しようとしているのだろう。もし彼が発言することになれば、必ず大きな事を問題にするに違いないぞ」
と。
「なるほど」「そういうことか」
みな納得した。
一日、聞入札子、衆共偵之。
一日、札子を入るると聞き、衆ともにこれを偵(うかが)う。
ある日、王平はついに封緘した文書を皇帝に提出した。それを聞いて、みんなどういう内容か、(帝の感想を付して)回報されてくるのを待った。
やがて、皇帝から「不報」(報ぜず。「採用しない」の意)として返ってきたのは、
弾御膳中有髪。
御膳中に髪有るを弾ず。
帝の食事の中に、髪の毛が混ざっていたとして、料理係を弾劾する。
という内容だったので、みなずっこけた。さらに、弾劾文の中に、
是何穆若之容、忽睹鬈如之状。
これ何ぞ穆若(ぼくじゃく)の容、忽ち睹る、鬈如(けんじょ)の状たるを。
陛下はたいへんにこやかに寛いでおられたのに、突然御覧になられた、「まげ」が入っているのか、と。
というに至って、あまりに大げさな表現に軽蔑した者も多かった。おそらく帝も同じ思いであったであろう。
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宋・張居正「倦游雑録」より。王平のその後の官歴はよくわかりません。いずれにしろ同僚は厳しいのです。その人たちがお祝い会開いてくれるとすると、何かいいことをしたのでしょう。
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