皆匿笑之(みな、匿(かく)れてこれを笑う)(「清朝野史大観」)
ほんとにいつも居眠りしているので、みんな陰では笑ってるかも知れませんが、笑う門には福来る、じゃ。みなさんがにこにこと笑っていられるように、毎日頑張って居眠りしてまいりたいと思います。

笑おうじゃありませんか。解き放つべき笑い以外に、我らが何を持っているというのか。
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清の道光年間(1821~50)に活躍した満州貴族の静庵・琦善というひとは、勉強があまり続かないひとで、
以蔭生入刑部。時年未逾冠、為漢人老輩所侮。
蔭生を以て刑部に入る。時年いまだ冠ならず、漢人老輩の侮るところと為る。
親の地位の権利で役人になり刑部省に入った。この時、まだ二十歳にもならない若造だったから、漢族の老官僚たちにずいぶんバカにされたものである。
心大恨之。以三百金延一部胥在家事以北面。二年而尽其技。
心大いにこれを恨み、三百金を以て一部の胥を延き以に在りて以て北面して事う。二年にしてその技を尽くせり。
心の中で「いまにみておれ」と悔しく思い、三千万円出して実務官吏をひとり雇って、家庭教師として父親に対するように従順に教えを受け、二年ほどの間に役人の実務をほぼ極めつくした。
その後はとんとん拍子に出世し、二十五歳で刑部の中央部局に引っ張られ、二十七歳で地方の知事、三十歳で山東省全体の民政を掌る巡撫になった。
政声卓然、宣宗至賞之。
政声卓然として、宣宗至りてこれを賞せり。
行政能力への評価は極めて高く、当時の道光帝は彼をたいへんほめていた。
すばらしい役人なのですが、
然不学無術。卒為清議所擯。
然るに学ばず術無し。卒に清議の擯するところと為れり。
しかし、勉強しないので学問が無く、また芸術もできなかった。とうとう当時の高尚な精神を求めるグループによって弾劾されてしまったのである。
直隷督撫(首都圏の行政とりまとめ官)のときに奏上した文書に、
該洋人呈閲所謂全権。其式円而上有斑文、近似符簶。
洋人、所謂「全権」を呈閲するに該れり。その式円にして上に斑文有りて、附録に近似す。
西洋人がいわゆる「全権」を提出してきたのでこれをチェックした。「全権」の形態は円形の枠の中にまだらの模様があり、道教のお札に極めて近い。
というのがあった。これが弾劾されたのである。
蓋不知全権為何物。且誤以洋文為符簶也。聞者皆匿笑之。
けだし、「全権」の何物たるを知らず。かつ、洋文を以て誤まりて符簶と為せり。聞く者、みな匿(かく)れてこれを笑う。
つまり、その国の王さまからすべての権限をもらってきた、という地位を示す「全権」を理解できず、図面の模様の呼び名だ思っていたのである。その上、西洋文字を道教のお札(不思議な文字のような模様が入っている)の呪文と誤解しているのだ。聞いたものは、隠れてみんな笑っていた。
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「清朝野史大観」巻七「清人逸事」篇より。能力が高い上に、部下たちを笑わせて、いつもニコニコ楽しい職場を作ったのです。こんなひとを弾劾するとは東洋文明はダメだ。
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