遂堕於此(遂にここに堕つ)(「奇聞類紀摘抄」)
しもじもは何を仕出かすかわかりません。大切な石馬を壊したり、本社で決まっている事業に反対したり・・・。

暑くなってきていたと考えれば、水を飲みに行くことは批判さるべきことではないでヒン。定期的に水を捧げていないニンゲンが悪いでヒヒーン。
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明・萬暦のころの伝説です。昔のことですから、科学的でないと批判してはいけません。
蘇州の町の城外で、
夜有二馬飲于河。
夜、二馬の河に飲む有り。
夜中に、二頭の馬が川で水を飲んでいた。
らしい。
らしい、というのは、飲んでいる姿を見たのはただ一人だけだからである。
天曙、為負蒭者驚見叱之、遂昂首而止。
天の曙なるに、負蒭者驚き見てこれを叱るに、遂に首を昂げて止まれり。
夜明けごろ、野菜を背負って市場で売ろうとする行商人が通りかかり、こんな時間に馬がいるので驚きながら、「こら!」と𠮟りつけたところ、馬は突然首をあげて―――そこで止まってしまった。
この二頭の馬は、なんと石馬だったのである。
一方、
是暁、城東禅法寺有一妙善遍訪市野。
この暁、城東禅法寺の一妙善の、市野を遍訪する有り。
この夜明け、町の東にある名刹・禅法寺の寺男が、市内や郊外をあちこち訪ね歩いていた。
「どうなさった?」
公主墓已失二石馬矣。
公主墓、すでに二石馬を失えり。
「当寺にあります昔の内親王様のお墓に並べられていた二頭の石馬が無くなっているので、捜し歩いているのです」
「ええー!」
と町の人たちがこの寺男を川のほとりの石馬のところに案内したが、
地人懼其復為怪、損其額。
地人、そのまた怪を為さんことを懼れて、その額を損なえり。
地元のやつらが、その石馬がまた変化して怪しいことを為すのを恐れて、すでにその頭を砕いてしまっていた。
破壊されてしまっているものを引き取ることもできず、
遂堕於此。今名石馬鞍頭。
遂にここの堕す。今、石馬鞍頭と名づく。
とうとう二つの石馬はここに野ざらしにされてしまった。今では(その跡形もないが)そのあたりを「石馬の鞍のところ」と呼んでいる。
わしの言うことは信じられない、というやつもいるかも知れんが、
此元末、国初之事也。西樵野記。
此れ元末、国初の事なり。「西樵野記」にあり。
この事件はいま(萬暦年間)から二百年も前、元の末、我が明朝の初めごろ(14世紀末)のことである。「西樵野記」という本に書いてある。
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明・施顕卿「奇聞類紀摘抄」巻二より。この本は、「変なことを聞いたのをグループ分けして簡略化してメモした」というような題名です。しかし「石馬飲河」というグループには、この話しか入っていません。やはり珍しいことだったのでしょう。地元民が壊してくれてなかったら、いったいどんな悪さをしたことか、と考えると、地元民のおかげでこれぐらいで済んでよかったです。
旧肝冷斎ではこの本をよく引用していたのですが、ここに移ってきてからはまだ二回目です。やっぱりおもしろいのと、いろいろ補わないと意味が通りづらい短い文章(メモなんだと思います)が、却って短い引用で済んでありがたい。
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