尽与其名姓(ことごとくその名姓を与(あ)ぐ)(「韓非子」)
優秀な人材は真実を知って歯向かってきたときに困りますから、早めに追い出されたりする・・・ということはないのでしょうか。ところで、この人たちはどんな人材だと納得するのかな?

人間はすぐころしてくるからイヤでぶー。
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紀元前のずいぶん昔のことでございますが、
鄭桓公、将欲襲鄶、先問鄶之豪傑良臣弁知果敢之士。
鄭の桓公、まさに鄶(かい)を襲わんと欲して、先ず鄶の豪傑・良臣・弁知・果敢の士を問う。
鄭も決して大きな国ではありませんが、そのすぐ傍に、より小さな都市国家・鄶(かい)がありました。別にぴったりした例ではありませんが、千葉市と東金ぐらいの関係でしょうか。
鄭の桓公(在位前806~前771)は、いよいよその鄶を手に入れようと考え、まず、その国の豪快で傑出したやつ、良心的で有能なやつ、頭の回転のよいやつ、果敢で勇気のあるやつ、要するに優秀な人材の名前を調べさせた。
そして、石板に、
尽与其名姓、択鄶之良田賂之、為官爵之名而書之。
ことごとくその名姓を与(あ)げて、鄶の良田を択びてこれに賂(まいない)し、官爵の名を為してこれに書す。
調べた優秀なやつの名前をすべて書き上げ、鄶の郊外の中でもよい土地をこの人たちにそれぞれ割り当て、それぞれに与える官爵の名前を刻み込んだ。
相手に断ったわけではありません。
因為設壇場郭門之外、而埋之、釁之雞猳若盟状。
因りて為に壇場(だんじょう)を郭門の外に設けてこれを埋め、これに雞猳(けいか)を釁(きん)して盟の状の若くす。
「猳」(か)はブタ。「釁」(きん)は犠牲ドウブツを殺してその血を塗りつけて、聖別する儀式。「釁」は「ちぬる(血塗る)」と訓じます。
そして、土壇を都市国家・鄶の城門の外に設けて、そこにこの板を埋めた。その際、ニワトリとブタをぶっ殺して犠牲にし、その血を振りまいた。まるで、「盟」(約束をする儀式)を行ったかのように。
城門の外なので、つねに監視しているわけではないのですが、何やら変な施設ができている、という報せを受けて、鄶の君主はその場を調べさせた。
そこで、町の優秀なやつの名前を刻みこんだ石板を見つけたのである。
鄶君以為内難也、而尽殺其良臣。
鄶君以て内難なりと為し、ことごとくその良臣を殺せり。
鄶の君主は、「なんということだ、謀反じゃ」と判断し、そこに名前のあった優秀なやつらをみんな殺してしまった。
それを確認してから、
桓公襲鄶遂取之。
桓公、鄶を襲いて遂にこれを取れり。
鄭の桓公は鄶を攻撃し、結局、これを併合してしまったのである。
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「韓非子」巻十「内儲説下」より。「この程度の謀略に引っかかるやつがいるのか? これだったらおれだって「今孔明」と称されるぐらいの軍師になれるのでは」とみなさんお驚きになると思いますが、なにしろまだ春秋の時代にもならない素朴な時代のことですから、この程度でも騙されるやつは騙されたのです。
現代でも、あらゆるところに国民分断の罠は仕掛けられているかも知れないのですが、現代のみなさんは新聞、TVなどのオールドメディアはもちろんのこと、SNSや動画にも騙されることがないわけですから、安心です。
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