搐気袋耳(搐気袋なるのみ)(「酉陽雑俎」)
昨日から考えているのですが、桃太郎に「鬼退治して財宝奪って来い」と吹き込んだのは誰なのだろうか。桃太郎も利用されていただけであり、桃太郎を利用した誰かがいるはず・・・。

まだ煙突に詰まっているのがいるかも知れません。
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唐の元和年間(806~820)、淮西道の将校某が河南・汴州の宿駅に泊まったときのことじゃ。
夜久、眠将熟、忽覚一物壓己。
夜久しくして、眠りまさに熟さんとするに、忽ち一物の己を圧するを覚ゆ。
夜が更け、ふがふがと熟睡していたとき、突然、何やらが上にのしかかってきたのに気づいた。
軍将素健、驚起与之角力。其物遂退、因奪手中革嚢。
軍将もと健なれば、驚起してこれと角力す。その物遂に退き、因りて手中の革嚢を奪えり。
将校はもとより力自慢であったから、飛び起きて、その謎のモノと力比べを始めた。やがて、そのモノはとうとう力比べに負けて引き下がったが、その際、将校は、相手が持っていた皮革の袋を奪い取った。
「角力」は「力くらべ」です。現在日本に残る「相撲」のような格闘技は「角抵」(かくてい)と表現するのが普通です。
しばらくすると、
暗中哀祈甚苦。軍将謂曰、汝語我物名、我当相還。
暗中より哀祈すること甚だ苦なり。軍将謂いて曰く、「汝、我に物名を語れ、我まさに相還せん」と。
暗闇の何処かから、悲し気に呻く声が聞こえてきた。どうやら何かを願っているようである。将校は、奪われた袋を返してもらいたがっているのだと理解して、言った。
「この袋がなんという物なのか教えてくれ。そうすれば返してやろう」
しばらく沈黙。やがて、
良久、曰、此搐気袋耳。
やや久しくして、曰く、「これ、搐気袋(ちくきたい)なるのみ」と。
時間をおいて、答えがあった。「それは・・・ただの「空気入れぶくろ」―――」
「そこか!!!!」
軍将乃挙甕撃之、語遂絶。
軍将すなわち甕を挙げてこれを撃つに、語ついに絶す。
将校は枕元の水瓶を持ち上げて暗闇に投げつけた。何かに当たる音がして、そこで言葉は途切れた。
その後、将校はその革袋を持ち歩いていたそうである。それを見た人の話では、
其嚢可盛数升、無縫、色如藕糸、携于日中無影。
その嚢、数升を盛るべく、縫える無く、色は藕糸の如く、日中に携うるも影無し。
唐代の一升は現在の一升の三分の一、約0.6リットルです。「藕糸」はハスの繊維から取った糸のことですが、唐代には、ハスの糸のような、青に白を混ぜた(「水色」のような)色の名前にもなりました。
その革嚢は、2~3リットルのものが入るであろうか、どんな動物の革か判然としないが、どこも縫い合わせたあとが無く、青白いハス糸色をしていて、昼間持ち歩いていてもその物の影が映らない(つまり日光を通過させる?)のであった。
将校はつねに
「あれがもし妖怪なら、人に哀訴などするもんですか。あれはただの人間だね。ああやって物盗りをしてきたのだろう」
と、言っていたそうだが、「搐気」というのはただの空気袋ではなくて、ひとの魂なり精気なりを奪って閉じ込める袋だったかも知れない。この世には説明のつかないこともあるのだ。
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唐・段成式「酉陽雑俎」続集巻二より。相手が闇バイト強盗団だったらもっと怖いように思います。クマだったらどうか。いろいろ考えさせられますね。
でも、サンタクロースだった可能性もあるのでは。これ以降、東洋には二度と来なくなってしまったのだ、と考えればすべての謎が解ける!
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