諤諤之臣(諤諤の臣)(「新序」)
何でも「はいはい」と言っている人は脳が腐敗しているのかも知れません・・・かといって、何にでも「がみがみ」文句をつける人の方が腐敗していないとは言えないかも知れません。

誰だって少しづついいところはある・・・はずかも知れません。いや、無いやつはいるかも知れません。
・・・・・・・・・・・・・・・・
春秋のころ、晋の大夫でほとんど独立国のような趙(後にほんとに独立します)の主であった趙鞅(簡子)さまのところに、周舎というやつがやってきた。
立門三日三夜。
門に立つこと三日三夜。
趙家の門の前に三日三晩立って、面会を求めてきたのである。
「直接会うとキケンかも」
趙鞅は人を遣って問わしめた、
夫子将何以令我。
夫子、まさに何を以て我に令せしむや。
「先生は、どういうことでわたしを指導してくださるのでしょうか」
周舎は言った、
願為諤諤之臣、墨筆操牘、随君之後、司君之過、而記之。日有記也、月有効也、歳有得也。
願わくば諤諤(がくがく)の臣と為りて、筆に墨し牘(とく)を操りて君の後に随い、君の過ちを司どり、これを記さん。日に記す有りて、月に効有り、歳に得る有らん。
「わたしの希望は、うるさいことをガンガンと直言する役の部下にしていただき、筆にいつも墨をつけて、メモ用の木切れを持ち、あなたの後に随い、あなたに間違いがあれば、それを記録するんです。毎日記録すれば、一か月すれば効果が現われ、一年すれば大きなプラスになるでしょうから」
と。
「なるほど」
簡子悦之、与処。居無幾何而周舎死、簡子厚葬之。
簡子これを悦び、ともに処(お)る。居ることいくばくも無くして周舎死し、簡子これを厚葬せり。
趙簡子はその提案に喜び、常に行動をともにした。そんな状態は長く続かず、しばらくすると周舎は死んでしまったが、趙簡子は(長く付き合ってきた友人であるかのように)手厚く葬ったのであった。
それから、
三年之後、与諸大夫飲。酒酣、簡子泣。諸大夫起而出、曰臣有死罪而不自知也。
三年の後、諸大夫と飲む。酒たけなわにして、簡子泣けり。諸大夫起(た)ちて出で、曰く、「臣に死罪有りて自ら知らざるなり」と。
三年経った。
ある日、趙簡子は主だったスタッフたちと宴会を開いた。だいぶんお酒も回ったころ、簡子は突然泣き始めた。スタッフたちは驚いて立ち上がり、すぐに宴会場から外に出て(居住まいを改め、)申し上げた。
「わたしども、(殿を泣かせてしまうとは)死罪になるような失態を仕出かしてしかったのでございましょう。それなのに、何を仕出かしてしまったのかに気づくこともできませぬ。
申訳けございません」と。
「いや・・・」
簡子は言った、
大夫反無罪。昔者吾友周舎有言。
大夫反って罪無し。むかし、吾が友周舎の言う有り。
「みなさんには、実は何の問題もないのだ。むかし、吾が友(のようなものであった)周舎が言っていたことを不意に思い出しただけだ。
曰、百羊之皮、不如一狐之腋。衆人之唯唯、不如直士之諤諤。昔紂昏昏而亡、武王諤諤而昌。曰く「百羊の皮も一狐の腋に如かず、衆人の唯唯は、直士の諤諤に如かず。昔、紂は昏昏にして亡び、武王は諤諤にして昌(さか)んなり」と。
彼はよく詩の一節のように言っていた、
―――百枚のヒツジの皮も、キツネの腋の下の白い毛にはかなわない。
そこらのみんなが「はいはい」と言うよりも、正直者が「ガミガミ」と言うのがありがたい。
むかしむかし、殷王の紂はまわりのことが見えなくなって滅んだが、周の武王はガミガミ言う人が多くて栄えたではないですか。
と。
ご承知のとおり、キツネの腋には一房だけ白い毛があり、これだけを集めて作った毛皮の服はたいへん貴重なものなのである。安価なものをたくさん集めるより、貴重なものを少しだけでも得る方が価値がある、と言うわけだ。
自周舎之死後、吾未嘗聞君過。
周舎の死後より、吾いまだ嘗て君の過ちを聞かず。
周舎が死んでから、わたしは、わたしが失敗した、ということを聞いたことがない。
ド〇ターX型ビジネスモデルですね。失敗しても失敗していないと言ってくれれば失敗しなくてもすみます。
だが、
人君不聞其非、及聞而不改者亡。吾国其幾於亡矣。是以泣也。
人君のその非を聞かず、聞くに及ぶも改めざる者は亡ぶ。吾が国、それ亡ぶに幾(ちか)きかな。これを以て泣けり。
国の君主が、まちがいを聞かないのはもちろん、聞くことができても改めようとしないなら、滅亡する。(これは確実なことだ。)わたしの国は、もう滅亡間近のではないか。そう思ったら泣いてしまったのだ」
ということだったのです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
漢・劉向「新序」雑事篇第一より(「韓詩外伝」巻七により一部改めた)。いい話ではありませんか。うんうん。久しぶりでマジメな話すると疲れるなあ。・・・みなさんなら疲れも見せずに、
―――いや、そんなことはございません!
―――過ちの無いのがすごいのでございます!
―――それでも反省されるとはさすがにございます、安泰にございます!!!
と先を争っておっしゃることができるでしょうけれど。
コメントを残す