如別黒白(黒白を別するが如し)(「松窗夢語」)
将来のことが見える人にははっきりと見えているのでしょう。しかし、凡人なので「こうなる」と思ったことはまず外れます。

来月の日本、わしの当たらない予想が当たらなければいいのじゃが・・・。
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明の初めごろ、浙江・四明の袁珙(えん・きょう)という諸生は、ある日、
偶迷失道、入深山遇異人。
たまたま迷いて道を失い、深山に入りて異人に遇う。
偶然に道に迷ってしまい、深い山中まで入り込んでしまって、そこで不思議な人に出会った。
長く白いヒゲを垂らし、山中に長く住んで、いろんな道術を研究しているという。その人の棲み処に泊めてもらって、しばらくお世話になったが、その間、
命以五色綫向日下弁之。後閲人富貴寿夭、如別黒白云。
命じて五色綫を以て日下に向かいてこれを弁ぜしむ。後に人の富貴寿夭を閲るに、黒白を別するが如しと云う。
太陽を見つめながら、五色の糸を見分ける修行をさせた。やがて、俗世に帰った後、人の人相を見て、カネ儲けをするか、高い身分に出世するか、長生きするか早死にするか、といったことを、黒と白を見分けるぐらい確実に見分けられるようになった、というのである。
この術を使って旅費を稼ぎながら、燕の大都(現在の北京)にやってきた。当時、大都には、明・太祖の第四子・朱棣が燕王として封じられていた。
人相見の看板を立ててしばらくすると、とにかく当たるというので評判になり、現地の相当の重要人物も将来を占いに来るようになったが、その中に、
目為公侯。
目して公侯と為す。
公爵や侯爵、すなわち大貴族や大名になりそうである。
と見られる人が多数いることに気づいた。
(こんな田舎にどうして?)
とは思ったが、占いの結果には自信があるので、彼らには素直に占果を告げた。
そうしているうちに、その中の一人に案内されて、壮年の男が占いに来た。「どうぞ、こちらにお座りに・・・」と案内されてきたその男を、
袁一見、伏地叩首。
袁、一見して、地に伏して叩首す。
袁は一目みて、飛び跳ねるように地面に俯くと、頭をがんがんと土にぶつける「叩首礼」を行った。
最大限の敬意を払ったのである。
そして、
仰対曰、殿下、龍質鳳姿。
仰いで対して曰く、「殿下、龍質にして鳳姿なり」と。
地面に土下座したまま顔を挙げて云うには、「殿下、龍のような体質にしておおとりのような体形でございますなあ」と。
殿下、すなわち燕王自身であることを見抜いた上で、言った、
天高地厚、真太平天子也。向所見諸貴人、因此貴耳。
天高く地厚く、眞に太平の天子なり。向(さき)に見るところの諸貴人は、此れに因りて貴なるのみ。
「(人相を観ますと)天の高さ・地の厚さをそのまま象ったお顔をしておられます。まことに太平を開く天子となられましょう。これまでに見た大貴族や大名に出世する方々は、殿下とともに出世していく方々であった、とわかりました」
燕王は困ったような顔をして、
「わかった。けど、他人に言うなよ」
と言った。
後、靖難の役を経て燕王が南京で「永楽帝」として即位すると、浙江に戻っていた袁珙は呼び出されて、占いや陰陽のことを掌る太常寺の丞(次官)となった。袁珙は「柳荘先生」と号したので、明の時代には、占いのできる人のことを「柳荘流」(柳荘先生の系列のひと)と呼んだ。
息子の袁忠徹は父以上の術者と謳われたが、そのお話はまたいつかいたしましょう。
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明・張瀚「松窗夢語」巻六より。五色の糸を見つめていると見えるようになるみたいですよ。あとは、シロをシロ、クロをクロという勇気があるかどうか、ですね。
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