誰加衣者(加衣せる者は誰ぞ)(「韓非子」)
そこらへんで寝てしまうと風邪をひくかも知れません。だが、余計なことをするとヘビの足ですからな、ぐふぐふぐふ。

おれに足描いても「うなぎ足」でビビビ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
戦国の昔のことでございますが、
韓昭侯酔而寝、典冠者見君之寒也。故加衣於君之上。
韓の昭侯、酔いて寝(い)ぬるに、典冠の者、君の寒きを見たり。故に衣を君の上に加う。
韓の昭侯(わたし(筆者)の先祖なんです。在位前362~前333)があるとき、お酒に酔って眠ってしまった。冠係の者が、殿さまが寒そうなのを見て、殿さまに一枚、衣をかけて差し上げた。
やがて、
覚寝而説、問左右、曰、誰加衣者。
寝より覚めて説(よろこ)び、左右に問うて曰く、「衣を加えし者は誰ぞ」と。
眠りから覚めて(心配して衣をかけてくれたことを)お喜びになり、近臣に対して訊いた、「衣をかけてくれたのは誰じゃ?」と。
左右対曰、典冠。
左右対して曰く、典冠なり。
近臣たちは答えて言った、「冠係にございます」と。
むむむ。
君因兼罪典衣与典冠。其罪典衣、以為失其事也。其罪典冠、以為越其職也。
君因りて典衣と典冠を兼ねて罪す。その典衣を罪せるは、以てその事を失うと爲せばなり。その典冠を罪せるは、以てその職を越ゆと為せばなり。
君主は、このために、衣服係と冠係を両方罰した。衣服係を罰したのは、彼のなすべき職務を為さなかったからであり、冠係を罰したのは、彼が職務でないことをしたからである。
非不悪寒也、以為侵官之害、甚於寒。
寒きを悪(にく)まざるに非ず、以て侵官の害の寒きより甚だしと為せり。
寒いのがイヤなわけではない。(衣をかけてもらってうれしかったのである。)だが、越権行為の害は、自分が寒くなることより甚だしいと考えたのだ。
ああ。
明主之蓄臣、臣不得越官而有功、不得陳言而不当。越官則死、不当則罪。
明主の臣を蓄(やしな)うに、臣は官を越えて功有るを得ず、言を陳べて当たらざるを得ず。官を越ゆればすなわち死し、当たらざればすなわち罪す。
すぐれた君主のもとで臣下が使われる時には、臣下は自分の職務を越えて功績を挙げてはならない。一方で、意見を陳述しなければならないが、その時には失当なことを言ってはならない。職務を越えて仕事をしたものは死刑であり、言った意見が失当であらば罪を与えられる。
守業其官、所言者貞、則群臣不得朋党相為矣。
業をその官に守り、言うところのもの貞(ただ)しければ、群臣は朋党して相為(たす)くるを得ざるなり。
仕事は命ぜられた官職の範囲内にし、意見は必ず正しいことを言う。これならば、臣下たちは党派をくんでお互い助け合うことができないのである。
臣下が党派をくみはじめたら、君主がないがしろにされるであろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「韓非子」二柄篇より。「韓非子」は他の先秦の文章に比べると、びっくりするぐらいわかりやすいです。韓非本人が吃音のため弁舌に自信が無く、文章で君主らに理解させることに意を用いた、という伝説が本当なのかも知れません。篇名の「二柄」は君主が臣下を使う時の二つの柄、植木ばさみの二つの把手、すなわち「賞」と「罰」のことです。君主は余計なことをすると「ようやってくれた、だが、余計じゃ」と言って簡単にコロしてくるのです。そんな怖い人たちのところには近づかないようにしないと。
コメントを残す