猫衰犬旺(猫は衰え犬は旺(さか)ん)(「浪迹叢談」)
「逆襲してやるでブー!」「やっつけてやるニャ!」「ぼくはやめとくワン」

にんげんに逆襲すべく体を鍛えるでぶー!!!
おれたちも協力するぜ!(あまり役に立たないけどニャ)
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もう二百年近く前の清代のことですが、わたくしの郷里の閩(福建)では、
有猫衰犬旺之諺、謂人家有猫犬自来、主此兆也。
「猫は衰え犬は旺(さか)ん」の諺有り、人家に猫犬の自ずから来たる有れば、この兆を主とすと謂う。
「ネコなら(家が)衰える、イヌなら栄える」ということわざがあります。人の家にネコとかイヌが勝手に転がり込んできたときに、これで、その後のことを占うのです。
ただ、この「命題」にはいろんなバリエーションがあります。「田家五行」という通俗書を見ると、
凡畜自来、可占吉凶。猪来貧、狗来富、猫児来、開宝庫。・・・①
およそ畜の自ずから来たるには、吉凶を占うべし。猪来れば貧、狗来れば富み、猫児来れば、宝庫を開く。
ドウブツが自分で転がり込んできたときには、それによって吉凶を占うことができる。
ブタが来たなら貧乏になる。イヌが来たなら裕福になる。ネコが来たときゃお蔵を開いて大金持ち。
ブタが来ることもあるんですね。
此与閩語不合。
これ、閩語と合わず。
この内容は、(ネコで栄えるので)福建のことわざとは齟齬している。
明の江盈科の「雪涛談叢」によれば、彼の郷里の江蘇では、
猪来窮来、狗来富来、猫来孝来。
猪来れば窮来たり、狗来れば富来たり、猫来れば孝来たる。
「孝」は親孝行だからいいことでは? と思うかも知れませんが、これは親が死んで服喪して孝行を尽くすことを言います。
ブタが来たなら貧乏が来る、イヌが来たなら富裕が来る、ネコが来たなら親が死ぬ。
と言い慣わされているそうです。
故猪猫二物皆為人忌、有至必殺之。
故に猪猫二物みな人の忌みを為し、至るあれば必ずこれを殺す。
それで、ブタとネコの二つは人びとにたいへん忌み嫌われており、もしやってくれば、必ず殺してしまう。
必殺されるでぶー! されるでニャー! (ホッ。ぼくは大丈夫でワン)と、ドウブツたちの悲鳴が聞こえてきそうです。
都市と田舎のことわざを集めた「雅俗稽言」という本では
猫児来、帯麻布。
猫児来れば、麻布を帯ぶ。
ネコが来たなら、粗末な麻の布の服を着ることに。
というコトバが記録されています。麻の服は喪服にも使われます。ところが同書には、別に、
猫児来、耗家。
猫児来れば、家を耗す。
ネコが来たなら、その家は食いつぶされる。
ということわざも記録されています。
ネコはそんなに大食いではないので、家を食いつぶすとは思えない。どうもこのへんに手がかりがありそうだぞ。
蓋其家多鼠耗、故猫来捕之。
蓋し、その家に鼠の耗多ければ、故に猫来たりてこれを捕らえん。
つまり、その家にネズミの被害が多ければ、ネコがやってきてネズミを捕ろうとするのではないか。
因耗誤為孝、又因孝布転為麻布耳。
因りて耗の誤まりて孝と為り、また因りて孝布転じて麻布と為るのみならん。
「消耗」の「耗」を「もう」と読んでいるのは日本語の読み癖なだけで、この字は本来「こう」と読みます。
「耗」(こう)が誤まって「孝」になって「親が死ぬ」と解されてしまい、「孝布」(喪服の布)が麻なので「麻布」を着ることになってしまっただけではないか。
我が郷の住金海先生いう、
此等語聞諸長老、謂是已然之効、非将然之祥也。
この等の語は諸(こ)れを長老に聞くに、謂う、「これ已然(すでに然り)の効にして、将然(まさに然らんとす)の祥には非ざるなり」と。
こういうコトバの意味は、お年寄りに聞いてみるのが一番じゃが、お年寄りが言うには、「そういうのは、それまでにそうなっていたことの結果じゃろう。これからこうなるという予想ではないぞ」と。
つまり、①のことわざの意味は、
窮則墻坍壁倒、猪自闖入之。富則庖厨狼藉、狗自赴之。開当舗則群鼠所聚、猫自共捕耳。
窮まれば墻は坍(くず)れ壁倒れ、猪自ずからこれに闖入せん。富めば庖厨狼藉し、狗自ずからこれに赴かん。当舗を開けば群鼠聚まるところとなり、猫自ずから共捕するのみ。
貧乏になったら、垣根が崩れ土壁は倒れてしまうから、ブタがおのずとそこから入り込んでくるのじゃ。
裕福になると台所に残飯がたくさん散らばるから、イヌがおのずとやってくるのじゃ。
店舗を新たに開いたら、(食べ物を求めて)ネズミがたくさん集まってくるから、それを捕まえようとネコが寄ってくるんじゃ。
なるほど。近代的です。でも貧乏になっても裕福になっても、ドウブツたちの前に役所が来るかも。生活再建もお願いしますよ。
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清・梁章矩「浪迹叢談」続談巻八より。最後は合理的な分析になってしまいました。確かに、ドウブツはたいてい合理的です。これに対して、日頃の人間関係の怨念などがドウブツに向けられて、「必ず殺す、ひっひっひ」とブタやネコを殺してしまうのですから、やはり人間が一番不合理で怖ろしいドウブツかも知れません。
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