10月20日 彗星はもう諦めることにしました

非尋常物(尋常の物にあらず)(「述異記」)

肉眼で確認するのは難しいらしいので、がっかりです。というより、それぐらいの明るさでは「天変地異じゃ!」とおろかなわれら人民が騒ぐ必要のない尋常のものなので、見なければならないということもありますまい。

百人一首なんかで平和ボケしていると絶滅してしまうぞ!

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清の時代のことですが、江南旌徳県の東郷の山中で、

有虎患数年矣。虎至数十、傷人逾千。

県の役人が命令を下して、猟師を集めて虎狩りをしてみたが、一頭のトラも獲ないうちに何人かが食われてしまった。それで、山を焼いて追い出そうとしたが、火の回りを避けて逃げるので、結局はげ山が出来ただけで何の効果も無かった。

康煕四十二年(1703)、

東郷王客往江西貿易、偶遇張姓父子二人。張姓自言我能捕虎。

「ほんまでっか?」

王は商売の原資をすべて差し出して前請け金にし、二人を東郷の村に招いた。

其人至山環視、即知有幾十幾虎。

調べ終えると、表を作って、そこに予想されるトラの大きさや年齢、トラ同士の血縁関係などを推測して書き込んで行った。

また、

於有虎山径設窩弓。

「窩」(か)は「穴」ですが、穴に物を隠すことから、「隠れ場」「(ものを)隠す」という意味にも用いられます。したがって、窩弓は「隠し弓」です。

実際に二人が働いたのはこれだけで、この後、二人は広めの部屋を借りて、そこに籠った。何をしているのかと訊くと、

焚符行牒、摂召当境土神、昼夜作法。

というのである。ほんとかな。

其室中亦設窩弓。

これがどういうふうにしてか、山中の同型の隠し弓とつながっているらしい。

室中窩弓機発、則知山中窩弓必中一虎。

部屋の弓がは弾けると、張父子は村の人たちとその弓と同じ型の弓を見に行って、近くにトラの死骸があることを確認した。村人らが貴重な皮を剥いでいる間に、張父子は一覧表から該当する番号を削除していくのである。

初得一虎、白質黒章、重四百斤。余虎皆極大、非尋常物也。

如此月余、已得七八虎矣。

「これで、この筋とこの筋のトラは子トラだけだな」「この親トラをやりましたから、この筋ももう大人しくしていましょう」

親子は何やらぶつぶつと相談していたが、ある日、

「もう我々がこの部屋で祈る必要はないでしょう。隠し弓はしばらく仕掛けたままにしておきますから、仕掛け場所を知らない村人は山に入らないようにしてくだされ」

と言って、ひきあげて行った。

久之、余虎漸遯、不敢復出。

そこで、

官民醵金厚贈遣之。

ということである・・・と、

旌邑劉子礼言。

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清・東軒主人「述異記」巻下より。地元の人の証言があるのですから、信憑性に問題はありません。しかも西暦1702年という年次まではっきりしています。

それにしても、張家の世襲なのでしょうが、トラの行動の先を読んでいくすばらしい技術です。頭がいいといえるでしょう。だが、今となってはトラは保護動物ですから、チャイナには彼らの世襲の技術を生かす場所はなくなってしまいました。 北海道でクマを? 今日の高裁判決見たら協力してもらえないと思いますよ。

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