殺賢之名(賢を殺すの名)(「後漢書」)
大きく出ましたね。共働き夫婦が増えているそうです。

どくに刺されると痛いでソリ。
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共働きなどの概念の無い紀元1世紀のころのことです。
前漢が新の王莽に乗っ取られ、その新が反乱に遭って滅んだ後、後漢の光武帝が天下を統一するまでの間、蜀の地では公孫述が皇帝を名乗って支配しておりました。
公孫述は、李業という賢者が隠棲しているというので、これを召したが、病と称して出てこなかった。
数年、述羞不致之。
数年、述、これを致さざるを羞ず。
そんなことが数年続き、公孫述は李業を呼び出せないことが、自分の信用にかかわっているのではないかと心配になった。
そこで、腹心の尹融に、毒酒を持たせて李業のところに行かせた。仕官してくれるなら大臣の地位を約束し、仕官しないようなら毒酒を奨めて脅してみろ、と指示したのである。あくまでも「脅し」のつもりであった。
尹融は李業に面会すると、もともとともに学問に志した仲である。率直に言った。
方今天下分崩、孰知是非、而以区区之身、試於不測之淵乎。朝廷貪慕名徳、曠官欠位、于今七年。四時珍御、不以忘君、宜上奉知己。
方今、天下分崩し、孰れか是非を知らん、しかるに区区の身を以て、不測の淵に試みるか。朝廷、名徳を貪慕し、曠官にして位を欠くこと、今において七年なり。四時の珍御にも、以て君を忘れず、よろしく知己に上奉すべし。
「見ての通り、今や天下は分裂して崩壊し、群雄たちの誰が正義か悪党かもわからない。だが、その中で、こんなちっぽけな体で、どういうことが起こるかわからない危うい池の端で、いつまでも何が起こるか試している、というのも如何なものだろう。
公孫述さまの政府では、名高い徳ある人であるおまえさんが出仕してくるのを心待ちにしている。この政府では、役人は足らず、高位に就くべき人が足りないでいる状況がもう七年続いているのだ(公孫述が独立してから七年経っている、ということです)。その間、四季の珍しい食べ物が届けられた時にも、公孫述さまをあなたのことを忘れず、一緒に食べたいものだと思っておられる。このように自分を知って、使ってみようとしてくれている人にこそ、お仕えすべきではないだろうか」
李業も正直に言った、
危国不入、乱国不居、親於其身為不善者、義所不従。君子見危授命、何乃誘以高位重餌哉。
「危国には入らず、乱国には居らず」、その身を不善を為す者に親しくするは、義として従わざるところなり。君子、危を見て授命するに、何ぞすなわち高位重餌を以て誘うか。
「「危険な国には入るな。乱れた国にはいつまでも居るな」とは「論語」の言葉だ。善くないことをしようとしているワルどもに親しく付き合おうとするのは、義として従うことができない。それに、おまえさんのような立派な人が、危険だとわかりながら仕事を勧めてくれるに当たって、高い地位や重い恩賞を見せてエサにしようとは、どういうことか」
尹融は李業の志を屈する気がないのを見てとると、言った、
宜呼室家計之。
よろしく室家を呼びてこれを計れ。
「それでは、おくさんをお呼びして、ご相談することはないか」
李業曰く、
丈夫断之於心久矣。何妻子之為。
丈夫これを心に断つこと久し。何ぞ妻子のために為(せ)ん。
「わしはオトコだから、妻子などをもう心の中で断絶して久しい。いまさら何を妻子のためにしてやろうというのだ」
「よろしい」
尹融は毒酒を与え、李業は
遂飲毒而死。
遂に毒を飲みて死す。
とうとう毒を飲んで死んでしまった。
これを聞いて、驚いたのは公孫述であった。
聞業死、大驚、又恥有殺賢之名、乃遣使弔祠、業子翬逃辞不受。
業の死を聞きて大いに驚き、また殺賢の名有るを恥じて、すなわち使を遣わして祠に弔わしむも、業の子、翬、辞して受けざりき。
業が死んだというのを聞いて大いに驚き、また、「賢者を殺した」との悪評が立つのをいやがって、使者を遣わせて弔いに行かせた。業の子の翬(き)は、断るのがたいへんだったそうである。
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「後漢書」独行列伝より。賢者を殺してはいけません。賢者でなければいいのか、と言われるとそうでもないのですが。
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