水則覆舟(水は則ち舟を覆す)(「荀子」)
「君」は主権者である。現代では主権者はみなさんである。従ってみなさんは・・・?

実はおれたち、ニンゲンに比べればパニックに陥りにくいドウブツらしいのでヒン。
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馬駭輿則君子不安輿、庶人駭政則君子不安位
馬、輿するに駭(おどろ)けば君子も輿に安んぜず、庶人、政に駭けば君子も位に安んぜず。
馬が、車を牽引するときにびっくりして混乱すると、地位ある立派な人でも車の中に安心して座っていられない。同様に、多数の人民たちがびっくりして混乱するような政治をすると、地位ある立派な人も安心して仕事ができない。
と申します。
「おれは地位ある君子だけど、現代人だから馬車なんか乗ってないよ」
と文句があるかも知れませんが、これは紀元前の東洋のむかしの人の言葉なので、現代から見たら愚かしい内容であっても仕方がないんです。ああ、むかしの東洋の人たちは我々現代人のように優れていなかったので馬車なんかに乗っていたんだ、愚かだなあ、と笑いながら読み進めてください。
馬駭輿則莫若静之、庶人駭政則莫若恵之。
馬、輿に駭けばすなわちこれを静むるに若(し)く莫(な)く、庶人、政に駭けばすなわちこれに恵むに若く莫し。
馬が車を引きながらびっくりして混乱したときは、馬の気持ちを静めてやることが必要だ。同様に、多数の人たちが政治にびっくりして混乱したときは、施しをしてやることが必要である。
選賢良、挙篤敬、興孝悌、収孤寡、補貧窮。如是則庶人安政矣。
賢良を選び、篤敬を挙げ、孝悌を興し、孤寡を収め、貧窮を補う。かくのごとければ、庶人政に安んぜん。
優秀で善良な人を選んで仕事をさせ、篤実で敬虔な人をしかるべき地位に就け、孝行や兄思いなどの倫理を振興し、孤児や寡婦を保護し、貧しい者・窮乏している者を扶助してやる。このようにすれば、多数の人たちは政治に安心するであろう。
庶人安政、然後君子安位。
庶人政に安んじ、然る後君子は位に安んずなり。
多数の人たちが政治に安心すれば、その結果として、立派な地位ある人も安心して仕事ができるのである。
伝曰、君者舟也、庶人者水也、水則載舟、水則覆舟。此之謂也。
伝に曰く、君なる者は舟なり、庶人なる者は水なり、水はすなわち舟を載せ、水はすなわち舟を覆す、と。これ、この謂いなり。
むかしから言うではありませんか、「君主とは舟である。多数の人たちは水である。水はあるときは舟を泛べるが、あるときは舟を転覆させる」と。これはこのことを言っているわけじゃ。
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「荀子」王制篇より。君なる者は舟、庶人は水、というのは「荀子」の中では屈指のわかりやすい譬喩なので、後世の人(例えば唐太宗)にもよく使われます。
ところで、現代のひとで、自分が「水」の方だと思った人はいませんか。その人はチャイナ古典のシロウトといわれますよ。先秦の賢者たちの言葉で、「君」と出てきたら、現代では主権者たるみなさんのことに置き換えてみないと正しく読解できません。たしかに、取り巻きに騙されたり、享楽に耽って優先順位を間違ったり、正しい情報を伝えてくれた人に怒ったり、むかしの王さまたちはみなさんそっくり・・・。
みなさんは、「賢良を選び、篤敬を挙げ、孝悌を興し、孤寡を収め、貧窮を補う」主体の方なので、これをしないと「覆される」と荀子が言っているわけです。というわけじゃから、今月はまず、最初のやつをちゃんとやってくだされよ。
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