7月2日 ほぼ同世代ですがおそろしい女だぜ

大毒蛇之身(大毒蛇の身)(「新猿楽記」)

漢文というのはこういうものだ、と、ちゃんと学校で教えて欲しいものです。

ここまで怖ろしくはないでニョロン。

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11世紀の中頃でしょうか、西の京の右衛門尉の一家は、妻三人、娘十六人、男八九人、一家を借りて猿楽を見物していた。

第一本妻者、齢既過六十而、紅顔漸衰。夫年者僅及五八而、好色甚盛矣。蓋弱冠奉公之昔、偏耽舅姑之勢徳、長成顧私之今、只悔年齢懸隔。

その本妻の姿は、

見首髪、皤皤如朝霜、向面皴、畳畳如暮波。

対句になってますね。

上下歯欠落、若飼猿頬、左右乳下垂、似夏牛閘。

「閘」字は、ほんとは「甲」でなく「由」なんですが、IMEパッドに字が無いのでこれで代用します。閘は水門のことですが、「甲」が「由」になった文字は、「康煕字典」にも出て来ないので和製ではないかと思いますが「ふぐり」。キンタマです。象形文字っぽいですね。

現代語に訳す意義を感じないぐらいよくわかる文章ですが、訳しておきます。

この後、この老妻が夫の愛を繋ぎとめようと、いろんな迷信行為にすがる話が列挙されています。曰く、あわびの神さまを棒で叩く宗教、曰く、鰹節の男根を奉って蠢かす宗教、などなど。

それでも夫の愛は戻らない。

嫉妬瞼如毒蛇之繞乱、忿怒面似悪鬼之睚眦、恋慕涙洗面上之粉、愁嘆之炎焦肝中朱。

名文ですね。

雖須剃除雪髪、速成比丘尼之形、而猶愛着露命、生作大毒蛇之身。

ああ怖ろしいではありませんか!

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本朝・藤原明衡「新猿楽記」より。二十代のころに読んで、久しぶりで読んでみるかと繙いたら、もう40年も経っていました。こんなのがあと何十人も出てくるのですから、イヤになります。「これぞまことの王朝文学」というべき趣味の悪さ、しつこさ、猥雑さが溢れた名著。大部分を省略してしまった「迷信行為」のように、当時のいろんな事象をこれでもかこれでもかと書き並べていく「もの尽くし」が印象的です。

本人は、永祚元年(989)、式家藤原氏の山城守敦信の子として生まる。「新猿楽記」のほか、「雲州往来」「本朝文粋」の編著、「続本朝文粋」等に選ばれた漢詩文があります。出雲守など地方官や衛門府の武官、式部少輔などを経て、七十歳で従四位下、文章博士、大学頭に就き、治暦二年(1066)卒。貴族とはいえ、我々人民と紙一重・・・とはさすがに言えませんが、だいぶん中下級です。匿名で書いた「鉄槌先生伝」があり、これは少年時代に読んで感銘を受けた。教科書に載ってないので読んでない人がいるかも知れません。これを紹介しなければ。では次回に。

鉄槌先生も下品でニョロ―ㇽ。

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