6月8日 東洋の秘術を見せつける

竟成人蝟(ついに人蝟と成す)(「觚賸」)

カッコ悪いのでできるだけ昼間の外出を控えているが、もし人間ハリネズミになれたら、町を歩いてみたくなりますね。「・・・になれたら」と思うばかりで消尽してきた人生であるが。

江戸時代、三河地方に現れた「きゅうそさま」は、ネコをも食べた巨大ネズミである。ハリネズミよりカッコいいかも。

・・・・・・・・・・・・・・・

清の康煕壬戌年(1682)七月のことです。

河南・祥符県といえば、もとは宋の都・開封の地ですが、その郊外に三教庵という古いお寺があった。

距城十余里、僻在荒野、隣近並無居民。

武学の生員(「武衿」)であった王某は、

自遠道訪旧而回、孑身無伴、暑渇且甚、暫憩斯庵。

庵僧以茶。飲之、生遂懜然不能言、但両目瞠視、形同木偶。

しばらくすると、もう一人僧侶がやってきた。

「どうじゃ?」

「いいからだをしておるのう。これなら一か月はもつな」

と会話していたが、やがて後から来た僧侶が、

以二寸許針従左手腕刺入、初覚微痛、漸乃不省。

僧侶らは、

遂解去生衣、髠其頂、復将百針自腰以上、凡肩背胸膊、悉用密釘、竟成人蝟。

「髠」(こん)は頭を剃ること、「蝟」(い)は「はりねずみ」のことです。

そして、次の日から、

柳輿舁之出庵、周行村鎮。

村の広場に着くと、二人の僧侶は、村人たちに、

「ほとけじゃ、ほとけさまがおくだりになられたのじゃ」

「おいたわしや、ほとけさまは、おまえたちの罪を替って負うために体中に針をお刺しになったのじゃ」

と言い、

口称仏号、且曰、有能施銀銭者、為抜一針。

「ありがたや」

檀施頗集。

「もっと稼げるぞ」

たくさん来たので、

衆中一人迫視久之、亟呼、此我表弟王生也。何以至是。

僧侶たちはただちに逃げようとしたが、

市人擒僧鳴官。

庵に立ち入り検査に入ったところいろいろ押収され、余罪が随分あることも判明した。

なお、王生については、県の派遣した医師が、

為生去針尽乃甦。

時の祥符令は黄古雲というひとで、自ら取り調べて処刑したという。

・・・・・・・・・・・・・・・

清・鈕琇「觚賸」正編巻五より。最後の一行でずいぶん信憑性が高まります。そうか、知事の個人名まで明らかなんだから、絶対ほんとのことなんだろうなあ。それにしてもチャイナの人はこういう猟奇的な話好きですね・・・と思いましたが、思いませんでした。思っていません。絶対。

ホームへ
日録目次へ

コメントを残す