7月8日 見ても聴いても言わザル

古事莫語(古事語る莫かれ)(「蓬窗日録」)

めんどくさいことになるとまずいので言わないことは多いですよね。社会人には。そのうち忘れるし。

そろそろ夏休みに行くとこ決まった?計画倒れはオニは食わないよ!泣く子は食べるよ!

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北宋の蘇頌、字・子容(1020~1101)は、新旧両党間を調停する立場で活躍、元佑七年(1092)には宰相になり、魏公を追贈された高官ですが、水運儀象台とよばれる天文時計を制作した科学者としても名高い。

ところで、

蘇子容聞人引故事、必令検出処。

蘇子容は人の故事を引くを聞けば、必ず出処を検せしむ。

蘇子容は、誰かが会話の中で昔の本の中から故事を引いて話すのを聴くと、

「ちょっと待った」

と会話を止めて、必ず故事の出所をはっきりさせ、家にある本を持って来させてそれを確認してから、

「わかった」

と話を進めたのであった。

司馬光、字・君実(1019~1086)は、ご存じの「資治通鑑」の編者、不世出の歴史家にして王安石の新法を徹底的に否定した旧法党の中心人物です。

司馬公対賓客、無問賢愚少長悉以疑事問之、有可取即随手抄録。

司馬公賓客に対するに、賢愚少長を問う無く、悉く疑事を以てこれに問い、取るべき有れば即ち随手に抄録す。

司馬公は、お客があると、相手が知識人でも愚民でも、はたまた若かろうが年寄だろうが、どんな人でも、

「ちょっと待ってください」

と、疑問に思ったことは必ず質問した。その中で、参照するに足りることがあれば、すぐにその場で手を動かして書き取って、

「オーケーです。話を進めましょう」

と言うのであった。

有草簿数冊、対客即書且記所言之人。

草簿数冊有りて、客に対して即書し、かつ言うところの人を記す。

メモ帳がいつも数冊近くに置いてあって、お客の目の前でメモり、しかも誰が言ったかもメモするのでった。

こうやって7月5日みたいなのを書いていたんですね。
数十年経ってから、「あのときあなたはああいった」と指摘されて困った人もいたという。

この二人の前でヘタなことを話すとどんどん書き留められる(のでめんどくさい)ため、

当時諺曰、古事莫語子容、今事勿告君実。

当時の諺に曰く、「古事は子容に語る莫かれ、今事は君実に告ぐ勿かれ、と。

当時、ひとびとはこんなふうに言い慣わしていた。

「むかしの事を蘇子容さまの前で話さないように。現代の事を司馬君実さまに対して報告しないように」

わたしどもはいい加減なことしか言わないので困りますよね。

古人所以密推熟察以自験。其道藝所造、功力所成者、至於如此。

古人の密推・熟察には自ら験するを以てするゆえんなり。それ道藝の造(いた)るところ、功力の成すところは、かくのごときに至る。

むかしの人はこのように、厳密に考え、熟察して、自分でためしてみたのである。道徳・技術の到達点、工夫や努力の生産物は、これほどまでになっていたのだ。

すごいなあ。

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明・陳全之「蓬窗日録」世務篇巻二より。むかしの人はえらかったんです。もちろん、蘇頌や司馬光がエラいのはわかっているのですが、それ以外の人たちも、こんなめんどくさい人たちと付き合って、引用元や発言者名まで調べられていたのです。たいへんガマンしていたのだ。今のやつらはガマンできないからダメなんだ・・・みたいなこと言うと老害ですので言わないようにしてください。

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