化金之術(金に化するの術)(「能改斎漫録」)
カネのためなら何でもする世の中に、カネの成る木があったらもう絶滅していることでしょう。

黄金より大事なものがあるはずでにょろん。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
宋の時代のことなのですが、四川の青城山に道士が棲んでおられました。
ある日、
道士俾小師持鉄湯瓶、出観買酒。
道士、小師をして鉄湯瓶を持せしめ、観を出でて酒を買わんとす。
道士は、弟子の童子に鉄のやかんを持たせて、一緒に道観(道教のお寺)を出た。麓の町で酒を買おうというのである。
しばらく行くと、
「ちょっと待ってくだちゃいな」
小師中道奏厠以瓶掛樹端。
小師、中道にして厠を奏し、瓶を以て樹端に掛く。
童子は、途中でおしっこがしたくなったと言って、やかんを道端の木の枝先に引っかけ(おしっこをし)た。
ちょろちょろ・・・と用を足している間に、
瓶重木弱為風所揺、木葉揩磨所著皆成金色。
瓶重く木弱くして風の揺らするところと為り、木葉揩磨(かいも)して著するところみな金色と成れり。
やかんは重い、木は弱い。枝先が重いので風が吹くとゆらゆらと大きく揺れ、木の葉が他の木の葉をこすった。すると―――葉が触れたところはすべて金色に輝き始めた。
「なんだ、これは」
徐以木葉再揩、未至処則表裏黄赤。
おもむろに木葉を以て再揩するに、いまだ至らざるところもすなわち表裏黄赤なり。
そこで、試しに木の葉を取って、まわりにこすりつけてみたところ、まだ金色になっていなかったところも全部、(葉の)表も裏もぎらぎらと黄金色に輝いたのだ。
「むむむ」
道士と童子は顔を見合わせて頷き合うと、お酒を買いにいくのは中止して、金色の葉っぱをできるだけ抱えて道観に帰った。
道薬を煎じるための器械を使って、
既煆以火、赴市貨之、得上金之価。自是識化金之木因走四方未始乏絶。
既に火を以て煆(かわ)かし、市に赴きてこれを貨するに、上金の価を得たり。これより化金の木を識り、因りて四方に走るもいまだ始めより乏絶せず。
火であぶって水気を取り除け、それを市場に持って行って銀や銅と交換すると、上等の黄金と同じ価値で交換できた。これ以降、金になる木を発見して、彼らはどこに旅に行っても、おカネに困ることはなくなったのである。
これは、開封で知り合った四川出身の待制官の韓子蒼(ということは地元に通じた信頼できる知識人官僚)から聴いたことである。
按此則世間真有化金之術矣。
此れを按ずるに、すなわち世間に真に化金の術の有るなり。
このことを考えると、やはり現実世界には、黄金を作成する方法があるのであろう。
これは聞き捨てならぬ重要情報ですよ。
・・・・・・・・・・・・・・
宋・呉曾「能改斎漫録」より(「古今筆記精華録」巻二十二所収)。とはいえ、ほんとにカネのなる木を見つけたのなら、道士と童子は
(いいか、秘密だぞ)
(当たり前でちゅよ、分け前が減りまちゅからね)
と初めは固い約束をしても、やがて「口止めだ」「独り占めにちてやるぜ」とどちらが先に手を出すか、あるいは同時であるか、とにかく無事ではすまなくなるでしょう。つまり、こんな話が後世に伝わっているということからして、この話は虚偽だと思われますので、みなさん株でも買ってた方がいいですよ、青城山に捜しに行っても意味ないですよ(・・・と言いながら、四川行きの切符をそっと買って探しにいくかも。カネのためなら何でもする世の中ですからね)。