為妖且久(妖を為すことまさに久し)(「宣室志」)
大暑で暑い。新幹線も停まりました。今日は一仕事終わったのに、もう次の仕事が。もうおしまいだー。こんなに暑いのに会社行く人は変じゃ!長老のわしが言うのじゃ!みな聞くのじゃ!

縄文時代だったら何世代かに一人ぐらいしかいないぐらいの大長老の年齢であるわしが「これほどの暑さは子どものころから経験したことがないじゃ」と嘆くほどなのだ。サカナも茹だって赤くなっていることでしょう。雨の降り方もかっこよく、亜熱帯風になってきました。
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唐のころ、董観という人がいた。以前は僧侶として太原の寺にいたが、太和七年(833)、親族の王生とともに長安に出かけ、夏の暑い盛りに長安南郊の商於の町で一泊した。
舎山館中、王生既寐、観独未寝。忽見一物出燭下。既而掩其燭、状類人手、但指則細。
山館中に舎し、王生既に寐ね、観独りいまだ寝ねず。忽ち見る、一物の燭下に出るを。既にしてその燭を掩う。状は人手に類するも、ただし指は則ち細し。
山中の館に泊めてもらった。王生はすぐ寝てしまったが、観の方は暑くてなかなか寝付けなかった。と、突然、何やら蝋燭の灯りの下に入ってきたものがある。やがて燭台を覆ってしまったそれは、巨大な人間の手のようなものだった。ただし、指の部分がたいへん細かった。
(クモ? それにしては大きすぎる・・・)
と目を疑いながら、
視燭影外若有物、観急呼王生。生起、其手遂去。
燭の影の外を視るに物有るがごとく、観、急に王生を呼ぶ。生起くるにその手遂に去る。
蝋燭の影の外、屋外をみると、そこに何やらやはり何かいるよう(で、手のごときものはそこから中に入り込んできているの)だ。観は大急ぎでまた王生を呼んだ。王生が起き上がると、その間にそのモノはどこかに消えてしまった。
董観は言った、
慎無寝。魅当再来。因持挺而座伺之。
慎んで寝ぬる無かれ。魅まさに再び来たらん。因りて挺を持して坐してこれを伺う。
「しばらく寝ないようにしてくださいよ。バケモノはもうすぐまた来ます」と。そして、自らは鉄の棒を手にして、座ったまま待っていた。
良久、王生曰、魅安在。兄妄矣。即就寝。
良(やや)久しくして、王生曰く、魅いずくに在りや。兄妄せり、と。即ち就寝す。
しばらくすると、王生は言った、
「どこにバケモノがいるのでむにゃ。兄さんは幻を見ただけでむにゃむにゃ・・・」
とまた眠ってしまった。
すると間もなく、
有一物長五尺余、蔽燭而立、無手及面目。
一物の長さ五尺余りなる有りて、燭を蔽いて立ち、手及び面目無し。
長さ1.5メートルぐらいの「なにか」が現われ、蝋燭の光を覆うかのように寝室に立った。わずかな光で見るかぎり、それには手も顔も無かった。
観呼王生、生怒不起。
観、王生を呼ぶに、生怒りて起きず。
董観は王生に声をかけたが、「うるさいむにゃ」と、王は怒って起きて来ようとはしなかった。
独力で戦う必要がある。
観以挺愖其首。其躯若草所綰、挺亦随其中而入。力取不可得。俄而退去。
観、挺を以てその首を愖(しん)す。その躯、草の綰するがごとく、挺またその中に随いて入る。力取するも得べからざるなり。俄かに退去す。
董観は鉄の棒でそいつの頭部をぶん殴った。ところがそいつの体はまるで草が丸まっているかのように手応えが無く、鉄棒もその中にずぶずぶと入ってしまって、力をこめて抜き出そうとしても取り戻すことはできなかった。それでも効果はあったのであろう、すぐにそいつはどこかに逃げ出してしまった。
観はまた来るのではないかと心配して、朝までまんじりともしなかったが、もうそれは来なかった。
明日訪館吏。
明日、館吏を訪う。
翌朝、董観は館の管理人に詰め寄った。
管理人が言うには、
此西数里、有古杉。常為魅。疑即所見也。
この西数里に古杉有り。常に魅を為す。疑うらくは即ち見るところならん。
「ここから二三キロ西(一チャイナ里≒600メートルで計算)に古い杉の木(以下「縄文杉」という)があるんじゃ。いつもこの木が悪さをするといわれておる。お前さんが見たのはそれではないか」
そこで、
観及王生往尋、果見古杉。有挺貫其枝柯間。
観及び王生往きて尋ぬるに、果たして古い杉を見る。挺のその枝柯の間を貫く有り。
観と王生は(管理人に案内してもらって)、森の中に入った。果たして数キロ行くと縄文杉があった。その枝の間には、昨日奪われた鉄棒があった。
管理人は言った、
此為妖且久、未嘗験其真。今則真矣。急取斧尽伐去之。
これ妖を為すことまさに久しきも、いまだその真を験ずることあらず。今すなわち真なり、と。急に斧を取りてことごとくこれを伐去せり。
「こいつは長いこと妖しい振る舞いをすると言われてきたのです。しかし、これまではその証拠がありませんでした。今、お二人の力により(鉄棒が貫いている、という動かぬ物的証拠を得て、)ついにそのことが本当と判明したのです」
そして、斧を使って、縄文杉を完全に伐り倒してしまった。
(・・・長い間不思議な力を行って来た杉でさえ、正体が明らかになればこうやって消されてしまうわけだ)
董観は思うところがあったのであろう、間もなく還俗して、それからはごく平凡な生活をつづけたという。
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唐・張讀「宣室志」巻五より。相手が意外と弱いので一撃で勝ってしまいました。というかもともと植物だし、大した害は無かったのでしょう。害のない植物が伐られ、SDGsにも損害があったとう教訓かも知れません。
すぐ寝てしまう王生の方に親近感を感じてしまいますねむにゃ。