飲量不敵(飲量敵せず)(「明語林」)
若いひとの邪魔をしたらいけませんが、わたしより元気な年上の人はどんどん邪魔していただいて結構ですよ。はいはい。

若造よ、わしを乗り越えてみよ!
・・・・・・・・・・・・・・・・
明の陳約之という人、酒量を以て評判だったが、三十歳年上の侍郎の崔銑には、
雅知飲量不敵。
雅(もと)より飲量敵せざるを知れり。
まったく酒量が敵わないと自ら認識していた。
いつかは追い越したいものである。
・・・と思っていたところ、
値崔病初起。
崔の病いより初めて起つに値(あ)う。
崔が病気になり、そこからなんとか回復したらしいと知った。
チャンスである。
そこで、
往謁、与轟飲。
往きて謁し、ともに轟飲す。
本復祝いに出かけて面会し、二人で大酒を飲んだ。
至夜分、約之大酔、跌宕不能支。
夜分に至り、約之大酔して、跌宕(てつとう)して支える能わず。
「跌宕」は熟語として「きままに振る舞う」の意味になりますが、ここでは、「跌」(てつ)はもともとの意味の「つまづく」「よろめく」で、「宕」(とう)は「蕩」(とう)と同じ意、「度を過ごす」と分けて解しておきます。
深夜になると、約之は大いに酔って、よろめき乱れてまっすぐに座っていられない状態になった。
「うひひひ~」
その様子を見ながら、崔はおつきの者に言った、
彼不自知、顧乗我瑕而闘我。微我健、不幾敗北踉蹌耶。
彼自ら知らず、顧みて我が瑕に乗じて我と闘わんとす。我、健なる微(な)かりせば、敗北して踉蹌たるに幾(ちか)からざるか。
「この男は自分の力を顧みずに、わしの弱っているのに気づいて、それに乗じて挑んできたのじゃ。わしがここまで回復していなければ、破れてうろうろと逃げ出していたかも知れんのう」
そう言って、
復挙十余白、乃別。
また十余白を挙げて、すなわち別る。
この「白」は「さかずき、杯」のことです。
さらに十余杯、ひとりさかずきを挙げて、そこで「そろそろ帰らせてあげなさい」と言って、退席させた。
「あと十、いや二十年もすれば勝負になるかも知れんな」
しかるに、陳約之は、
竟病喀血、不起。
ついに喀血を病みて、起たざりき。
そのまま血を吐いて寝ついてしまい、とうとう回復することが無かった。
・・・・・・・・・・・・・・
清・呉粛公「明語林」巻八「豪爽」より。死んでしまいました。若い人の邪魔をしてはいけません。わたしなんか道の横に避けて、若い方の御威光がまぶしいので土下座して目を伏せております。はやく通り過ぎてほしいものです。