七日不荅(七日、荅(こた)えず)(「後漢書」)
ずっと他力人生なので他人よりシアワセになることはありません。

今月だけでいいんならいいんですが。
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3月26日に、梁鴻がブスで色黒で力持ちの女と結婚することになった話をしました。
結婚が決まると、
女求作布衣、麻履、織作筺緝績之具。及嫁、始以装飾入門。
女、求めて布衣、麻履を作り、織りて筺と緝績の具を作る。嫁するに及びて始め装飾を以て入門す。
女は、布の衣や麻のくつを作り、また、糸を紡ぐための道具と糸を入れる箱を作った。嫁入りするときには、きれいに着飾って梁の家の門をくぐったのであった。
ところが、
七日而鴻不荅。
七日すれども鴻、荅えず。
「荅」は「答」と同じです。
七日経ったが、ムコの梁鴻は何の反応もしなかった。
ブスだからでは・・・?
妻乃跪牀下、請曰竊聞夫子高義、簡斥数婦。妾亦偃蹇数夫矣。今而見択、敢不請罪。
妻すなわち牀下に跪まづきて、請いて曰く、「竊かに聞くに、夫子の高義なること、数婦を簡斥すと。妾もまた数夫を偃蹇せしなり。今にして択ばるる、敢えて罪を請わず」と。
妻は、そこで夫が座るベッドの下にひざまずいて、お願いして言った。「うわさで聞いたところでは、あなたさまは高潔で正義感強く、何人ものお嫁候補を断ってこられた、と。わたしも(あなたのような人に嫁入りしたい、と)何人かのお婿候補をお断りしてきたんです。こうやって選んでいただいたのですから、あなたから罪を問われるようにはなりたくありませんわ。(なのに、この七日間、一言も口を利かないとはどういうことですか、きーーー)」
石臼を持ち上げるという危険な女です。怒らせるとマズい。
梁鴻は言った、
吾欲裘褐之人、可与倶隠深山者爾。今乃衣綺縞、伝粉墨、豈鴻所願哉。
吾は裘褐の人の、ともに深山に隠るるべき者を求むるのみ。いまなんじの衣綺縞あり、粉墨を伝う、あに鴻の願うところならんや。
「わしはもともと、かわごろもや麻の服を着て、いっしょに深い山の中に隠れ住んでくれる者と結婚しようと思っていたんじゃ。ところが、今のおまえさんを見ると、服にはきらきらの模様があり、顔にはおしろいや眉墨を塗っておる。それがこの梁鴻の求めるものであるはずがあろうか」
すると、妻は言った、
以観夫子之志耳。妾自有隠居之服。
以て夫子の志を観るのみ。妾、自ずから隠居の服有り。
「おほほほほ。あなたの志を見届けようと思ってこう振る舞っただけなのよ。わたしには当然、隠居のための服があります」
そういうと、
更為椎髻、著布衣、操作而前。
更(か)えて椎髻を為し、布衣を著(き)、操作して前す。
着替えに行って、髪型を崩し、布の衣を着て、いろいろ直して戻ってきた。
ここにおいて嫁入り前に作っていた布の衣や麻の履の用途が明らかになりました。隠居のためのものだったのです。
鴻大喜曰、此真梁鴻妻也。能奉我矣。
鴻、大いに喜びて曰く、これ真に梁鴻の妻なり。よく我を奉ぜよ、と。
梁鴻は大いに喜んで、言った、「これこそ真にこの梁鴻の妻である。これからはよくよくわしに仕えておくれ」
そこで、徳容という字をつけ、孟光という名にしたのである。
※ちょっとジェンダー的には気になる記述もありますが、歴史的価値を尊重してなんたらかんたら。
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「後漢書」巻八十三「逸民列伝」より。とりあえずシアワセになったようですが、二人の生活はまだまだ続きます。先に伏線を仕込んでおくとか、「あなたを試しただけよ」とか、この女、かなりやります。力だけでなく精神的にも強力です。熟年までもつか。