以小郎嘱(小郎を以て嘱す)(「世説新語」)
やられそうになったら逃げなければいけませんが、眠くてやられそうになっても眠ってしまい、逃げられないということがあるかも知れない。

つづらはでかい方ではなく、重い方を選ぶべき。何かいいもの入っているかも。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
西晋の終りごろ、王夷甫の弟の王平子は、年は若いが剛直で通っていた。
年十四五、見王夷甫妻郭氏貪欲、令婢路上擔糞。
年十四五のころ、王夷甫の妻・郭氏貪欲にして、婢を路上に擔糞せしむるを見る。
十四か十五のころ、兄・王夷甫の妻(つまり義理の姉)である郭氏が、侍女に命じて、こえたごを担がせて手間賃を稼いでいるのを目にした。
「そこまでする必要はないじゃないですか」
平子諫之、並言不可。
平子これを諫め、並びに不可なるを言えり。
平子は義姉を諫めて、さらにこんなことしてはダメだと言った。
すると、
郭大怒。
郭は大いに怒れり。
郭夫人は大いにお怒りになられました。
謂平子曰、昔夫人臨終、以小郎嘱新婦、不以新婦嘱小郎。
平子に謂いて云う、昔、夫人終わりに臨みて、小郎を以て新婦に嘱せり。新婦を以て小郎に嘱さず、と。
「夫人」は「おくさま」、ここでは夫や平子の母、彼女の義母を指す。「小郎」は弟ぎみ、ぼうや、などの意味で使っています。
平子に向かって言った、
「かつて、おくさま(王夷甫、王平子の母親)が亡くなる時に、「ぼうやのことをよろしく頼む」とヨメのわたしに言い置いていたのでしたわ。ぼうや、わたしのことをよろく頼まれたわけではございませんでしょ!」
そして、突然、
「ふんがー!」
と声を挙げて、
急捉衣裾、将与杖。
急ぎ衣の裾を捉え、まさに杖を与えんとす。
平子の衣のすそをひっつかんで、杖でぶん殴ろうとした。
完全に奇襲だ。
「やられてたまるか」
平子饒力、争得脱、踰窓而走。
平子力に饒し、得脱を争いて、窓を踰えて走る。
平子は力がある(と言われていた)ので、衣の裾を振りほどき、窓から逃げ出して行った。
・・・・・・・・・・・・・・・
南朝宋・劉義慶「世説新語」規箴第十より。郭氏はおカネにうるさい悪女として有名ですが、スピード感も意外とありますね。すぐ杖を振り上げるなど、元気があってよろしい!ではありませんか。六朝時代の女性はこんなのが普通だったのです。
なお、王夷甫(王衍)は、西晋滅亡後、侵入してきた五胡の一人・石勒に、「国を滅ぼしたのは、清談にうつつを抜かしていたあなたではないか」と言ってコロされてしまった人です。東洋は簡単に人がコロされますね。
しかし、深刻ないじめはインドヨーロッパ語族にはないなんてはずないと思うのですが。むしろあちらが先進国では?