已越墻遁(已に墻を越えて遁(のが)る)(「智嚢」)
めんどくさいので短い方でいいでしょう。

こんなすばらしい意見を語り合っていたに違いないのである。
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三国志で有名な蜀漢の劉備(昭烈帝)のところへ、ある時、客があった。
談論甚愜。
談論甚だ愜(かな)う。
「愜」(きょう)は「ここちよい」「こころよい」の意。
話が合って、無茶苦茶おもしろかった。
そこへ、
諸葛忽入。
諸葛忽ち入る。
諸葛亮が突然現れた。
「忽ち」なので「突然」と理解するしかありません。これだけ見ると突然やってくる変な人のように見えますが、劉備が、諸葛亮と一緒に三人で話をしたくて呼び寄せた、という筋書きが背景にあるのだと思われます。
客遂起如厠。
客、遂に起ちて厠に如(ゆ)けり。
客人は、やがて立ち上がって、トイレに行った。
客人のいないところで、
備対亮誇客。
備、亮に対して客を誇る。
劉備は、諸葛亮に対して、この客人を誉めた。
「三国志」裴松之注によると、客人の提言を説明し、このひとは「補卿の才」(おまえさんを助け(てわしに天下を得させてくれ)るような才能)の持ち主である、とか言ったんだそうです。
すると、諸葛亮は言った、
観客色動而神懼、視低而盼数、奸形外漏、邪心内蔵。必曹氏刺客也。
客の色動きて神懼れ、視低くして盼すること数(しばしば)するを観るに、奸形外に漏れ、邪心内に蔵せり。必ず曹氏の刺客ならん。
「あの客人の顔色は動揺し、精神は何かを恐れているかのよう、目線は低いところを見ていて何度も瞬きしておりました。悪を為している形態が外に現れており、邪悪な心が内に秘められていると見えます。おそらく、曹操が遣わしてきた刺客でございましょう」
なんと!
まさか。
急追之。已越墻遁矣。
急にこれを追うも、已に墻を越えて遁がれたり。
(劉備は、)急いで(左右の者に指示して)その後を追わせたが、もうすでに(門からではなく)垣根を越えて逃げてしまっていた。
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明・馮夢龍編「智嚢」明智部知微篇巻五より。微かなことからいろんなことを知る、という史上のエピソードを集めている巻です。もとになっている「三国志」諸葛亮伝裴松之注では、諸葛の分析がいろいろ長くて引用するのがめんどくさく、こんな説明している間に逃げられるだろう、という感じなのですが、こちらはダイジェストなので短時間で読めます。しかも、裴松之自身が、この話は捏造だ、といろいろまた考証しているのでめんどくさくてたまらん!ので、こちらから引用しました。すっきりしてていいですね。
こういう諸葛のような能力を持った社外取締役が必要なのだ、とすると、確かに多くはいないであろう。