目猶爛然(目はなお爛然たり)(「顔氏家訓」)
「それでも目はきらきらしている」人もいるのです。

密雲雨ふらず状態だとネコはまず寝ます。わしもじゃが。体質的なものであろう。
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別易会難、古人所重。
別るるは易く会うは難し、とは古人の重んじるところなり。
「お別れするのは容易いのに、また会うことは難しい」とは、いにしえの人が重大な問題と考えたことである。
いにしえの人とは誰か。
魏の曹植である。その楽府「当来日大難」(来たる日は大いに難し、に当(か)える)に曰く、
別易会難、各尽杯觴。
別るるは易くして会うは難し、おのおの杯觴を尽くせ。
お別れするのは容易いのに、また会うことは難しい。
だから、みなさん、このさかずきを飲み干そう。
と。
わしはもともと江南の出身、いろいろあって北朝に仕えているわけだが、
江南餞送、下泣言離。
江南にては餞送し、下泣して離るるを言う。
江南地方では別れに当たっては「はなむけ」という儀式を行い、涙を流して別離の言葉を述べるものだ。
こんなことがあった。
有王子侯、梁武帝弟、出為東郡、与武帝別。
王子侯の、梁武帝の弟なる、出でて東郡と為り、武帝と別るる有り。
梁の時代、皇族の侯爵さまで武帝(在位502~549)の弟であった方が、都(建康)から東の方の郡に赴任することとなって、帝にお別れを言いに来たことがあった。
帝はおっしゃった、
我年已老、与汝分張、甚以惻愴。
我年すでに老い、汝と分張するに、甚だ惻愴たるを以てす。
「わしももう年を取った。おまえと住むところを別にするので、たいへん悲しいのじゃ」
そして、
数行涙下。
数行の涙下れり。
涙をだらだらとお流しになられた。
ところが、
侯遂密雲、赧然而出。
侯ついに密雲にして、赧然(たんぜん)として出づ。
侯爵の方は、密雲のままで(涙を流すことなく)、真っ赤な顔をして退出した。
「密雲」は「易」小畜の卦辞にいう、
小畜亨。密雲不雨、自我西郊。
小畜は亨(とお)る。密雲雨ふらず、我が西郊よりす。
「小畜」の卦が出た時は成功する。雲が空一杯に広がっているがまだ雨は降らない。我が都市国家の西の城外から降ってきた。
ということから、雲がいっぱいだが雨は降らない、悲しそうだが涙は出さない、の意味です。
この卦辞、謎めいていて神秘的で、いいですよね。いろんな解釈があるのですが、それはまたいつかお話する機会があればお話ししましょう。
さて、侯爵は涙を流さなかったというので、
坐此被責、飄颻舟渚、一百許日、卒不得去。
これに坐して責められ、舟渚に飄颻(ひょうよう)して、一百許(ばか)りの日、ついに去るを得ず。
これが問題になって攻撃され、出発のための船着き場でうろうろさせられ、百日ぐらいの間、出発が許されなかった。
ということがあったのじゃ。わしの生まれたがのが梁の国、この武帝の中大通三年(531)じゃから、わしの生まれたころのお話だ・・・。
その後、北朝に連行されてきたわけだが、
北間風俗、不屑此事、岐路言離、歓笑分首。
北間の風俗はこの事に屑(いさぎよ)しとせず、岐路に離るるを言いて歓笑して分首するのみ。
「屑」(せつ、しょう)は、「いさぎよい」「くず」という全く違った二つの訓(日本語の意味)を持つ字ですが、もともとは本来死体を表す「尸」(しかばねかんむり)と違って、「卩」(セツ。人がひざまづいている姿)に、「八」かんむりに「月」と書く「セツ」(つとめる、はたらく)がついた文字で、「ひざまずいて仕える」というような意味の文字だったんです。それが、「絜」(ケツ。「潔」)や「剟」(テツ。削る、削りくず)と(昔は)同音だったらしく、「いさぎよい」「ゴミクズ」の意味に使われるようになった―――という数奇な文字です。さらに、ここでは、「いさぎよし」から分派した「快い」の意味で使っているようです。
北方の風俗では、このようなこと(別離で涙を流す)をあまりいいことと感じないので、分かれ道で別離を言い、あとは笑って別れていくだけじゃ。
というふうに風俗が違うのだが、
然人性自有少涕涙者、腸雖欲絶、目猶爛然。如此之人、不可強責。
然るに人の性は自ずから涕涙の少なき者、腸の絶えんと欲すといえども、目はなお爛然(らんぜん)たる有り。かくのごときの人には、強いて責むるべからず。
しかしながら、人間にはいろんなひとがいて、おのずと涙を流すことが少なく、はらわたがぶっちぎれそうな悲しい時でも、それでも目はきらきらして(涙を流さないで)いる人もあるのだ。そのような人に、涙を流す習俗を強いてはならない。
南朝の貴族に生まれ、四つの国に仕えて苦労した顔之推らしい、すべてを受け入れていく哲学でした。
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隋・顔之推「顔氏家訓」第六・風操篇より。全文ほぼ四字句で出来ており、訓読しても調子いいですね。今日は早く帰ってきたのに、「屑」の字がなんで「くず」なんだろうと調べているうちにまた大変な時間に。明日まだ平日だというのに何故こんなことをしているのか、自分の愚かしさに涙が出てきます。
それにしても、うまく表面を取り繕えないので苦労します。今日も会議で沈思黙考していただけなのに、隣にいた大先輩から「寝るの上手いな」とあらぬ突っ込みが。え? 正しい指摘?