4月1日 本当のことなんて言えませんよ

異哉小童(異なるかな、小童)(「荘子」)

今日は本当のことを言ってはいけない日なので、本当のことしか言えないわたしどもは困ります。口を噤んでいるよりほかはございませぬ。

ほんとのこと言うと舌抜かれますからね。現世では。

・・・・・・・・・・・・・・・

(と言いながら、饒舌にしゃべり出す)そうそう、超古代のことでございますが、黄帝さまが、世界の秘密を知るという大賢者・大隗さまにお会いしようとして具茨(ぐし)山に向かった。

馬車を御するは方明さま、脇乗りは昌寓さま、張若さまと習朋さまは前駆けの馬に乗り、昆闇さまと滑稽さまは後駆けの馬に乗る。黄帝以下、みな当時の賢者の方々であります。

遥かに漢水を遡り、襄城の平原を過ぎたあたりで、

七聖皆迷、無所問途。

七聖みな迷い、途を問うところ無し。

七人の賢者たちはみんなどう行けばいいかわからなくなってしまった。道を訊いてみようにも、訊く相手もいないのだ。

すると、

適遇牧馬童子。

たまたま牧馬の童子に遇えり。

ちょうどそこへ、ウマ飼いの童子がやってきた。

そこでこいつに訊いてみた。

若知具茨之山乎。

なんじ、具茨の山を知れるか。

「おまえは、具茨(ぐし)の山を知っているか」

然。

然り。

「あい」

(ホントかなあ?)

若知大隗之所存乎。

なんじ、大隗の存するところを知れるか。

「おまえは、大隗さまがどこに居られるか、知っているか」

然。

然り。

「あい」

異哉、小童。

異なるかな、小童。

「なんとすごい童子ではないか」

七人の賢者たちは感心した。

非徒知具茨之山、又知大隗之所存。請問為天下。

徒(ただ)に具茨の山を知れるのみにあらず、また大隗の存するところを知れり。請う、天下を為(おさ)むるを問わん。

「単に具茨山の場所を知っているだけではなく、大隗さまの居場所まで知っているというのだ。よし、ついでに教えてくれ、天下を治めるにはどうすればよいのかを」

童子は、

夫為天下者、亦若此而已矣。

それ、天下を為むるは、またかくのごときのみ。

「ああ、天下でちゅか。それを治めるには、このようにしていればいいのでちゅ。うっしっしー」

と、ぼけー、と馬たちを見ながら言った。

予少而自游於六合之内。予適有瞀病、有長者教予、曰若乗日之車、而游於襄城之野。

予、少にして自ら六合の内に游ぶ。予たまたま瞀病(ぼうびょう)有るに、長者の予に教えて、「なんじ日の車に乗りて襄城の野に游べ、と教うる有り。

「おいらは、もっと小さいときから、自発的に世界のすべての場所を見てきまちた。そのうちに(見過ぎて)目がちかちかする病気になったので、ある先生が、おいらに「おまえは太陽の車に乗って、襄城の平原に行ってしばらくふらふらしてくるといい」と教えてくれたんでちゅな。

それでここにきて、ウマの番をして暮らしているのでちゅ。

今予病少瘉。予又且復游於六合之外。

今、予病い少しく瘉ゆ。予また、まさにまた六合の外に游ばんとす。

最近はもうおいらの病気もだいぶん治ってきまちたので、そろそろまた、今度は天下の外にまで行ってこようかなーと思っているところでちゅ。

夫為天下亦若此而已。予又奚事焉。

それ、天下を為むるはまたかくのごときのみ。予、またなんぞ事とせん。

うっしっしー。天下を治めるのも、またこんなものでちゅ。おいらはそんなことはしませんが」

と言って、またウマたちをぼけーとみているのです。

ほんとかなあ。うそっぽいぞ。

黄帝は訊いてみました。

夫為天下者、則誠非吾子之事、雖然請問為天下。

それ、天下を為むるは、すなわち誠に吾が子の事にあらざるも、然りといえども請う、天下を為むるを問わん。

「まあそうじゃな、天下を治めることは、どうみてもおまえの仕事ではなさそうじゃが、それでも訊いてみよう。天下を治めるにはどうすればいいのだろうか」

小童辞、黄帝又問。

小童辞するも、黄帝また問う。

「いやいや、そんなこと訊かれてまちてもなあ」と童子はいやがったが、黄帝はもう一度同じことを訊いた。

童子は言った、

夫為天下者又奚以異乎牧馬者哉。

それ、天下を為むるは、またなんぞ、以て馬を牧するに異ならんや。

「うっしっしー。天下を治めることは、こうやってウマを飼っているのにどこか違うところがありましょうか。

亦去其害馬者而已矣。

またその馬を害する者を去るのみなり。

ただ、ウマを邪魔する者を取り去ってしまえば、あとはうまくいくはずでちゅぞ」

「ああ、そのとおりです」

黄帝再拝稽首、称天師而退。

黄帝再拝稽首し、天師と称して退けり。

黄帝は馬車を飛び降りて地面に膝を突き、童子に向かって二回礼拝すると、一回頭を地面にこすりつけ、それから「天の先生さま」とお呼びして、それから帰っていった。

それ以上学ぶことがもうないので、大隗さまを探すことは止めたのである。

・・・・・・・・・・・・・・

「荘子」徐無鬼篇より。天下を治めるには、余計なことはせずに、邪魔をする者を取り去ってしまえばいいだけなんです。絶対ほんとですから、騙されたと思ってやってみてください。

ホームへ