爾輩常事(爾輩の常事なり)(「清通鑑」)
本日は昼間会議の後、仏料理食べる。ほとけさまのではなくフランスのやつです。ランチではなくディナーです。しかもタダめし。シアワセになる。間違いを仕出かしクビ斬られるかと心配しましたが、今ではもうみんな忘れていると思います。よかった。

はじめからクビしかないやつはクビ斬られても痛くないからいいですね。
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鴨緑江河口部の少し南、今は北朝鮮領になっていると思いますが、皮島という島嶼があって、ここは17世紀のはじめ、明の武将・毛文龍が占領し、後金(清)の南進に対する抵抗拠点となっていた。しかし明朝名物の讒言で毛文龍が粛清されてしまい、皮島から亡命した毛の残党は清側に投降し、太宗ホンタイジにしきりに皮島征討を勧めたのであった。
ホンタイジの崇徳二年(1637)四月、ついに清軍は睿親王ドルゴンの指揮のもと皮島に侵攻を開始、投降したもとの守将たちの作戦を容れて、囮艦隊によって明の守備隊を島の一方に集中させた上で、別方向から上陸に成功、たちまちのうちに明軍を掃討した。
明軍が最後に立て籠もった石城島も陥落し、毛文龍の誅殺の後を受けて守備隊の責任者となっていた総兵官・沈世魁も捕らわれ、
押入多爾袞帳中、不跪不拝、猶箕踞坐。
多爾袞の帳中に押入せられるも、跪かず拝せず、なお箕踞(ききょ)して坐す。
親王ドルゴンのテントの中に無理やり入れられたが、親王の前でもなおひざまづかず礼拝もせず、あぐらをかいて座ったのであった。
馬福塔怒斥之。
馬福塔、怒りてこれを斥(しりぞ)く。
総参謀の馬福塔は、怒って、𠮟りつけた。
何敢如是。
何ぞ敢えてかくの如きか。
「こんな状態になって、なぜあえてそんな態度を取るのか!?」
世魁は言った、
願速殺我。
願わくば速やかに我を殺せ。
「はやいとこ、わしを殺してくれんかな」
馬福塔は親王ドルゴンの傍らに寄った。
(如何いたしましょう)
(明の人材は可能なら活用したい、というのが帝の御意志だが、可能な限りだからな。縛り上げて遼陽に送れるものなら送るように)
馬福塔は世魁の方に向きなおった。
「そう簡単に死なせてもらえると思っているのか。・・・変なものを持ち込んでいたりすると怪しからんからな。
汝可脱衣。
汝、脱衣すべし。
まずは身に着けているものを脱いでもらおう」
世魁は声を立てて笑った。
我何以脱衣乎。殺其人、衣其衣、乃爾輩常事。殺我之後、染血之衣、爾可自取。
我何を以て脱衣せんや。その人を殺し、その衣を衣(き)るは、すなわち爾輩の常事ならん。我を殺すの後、染血の衣は、なんじ自ら取るべし。
「なんでわしが身に着けたものを脱がねばならんのかな。その人を殺してその人が身に着けていたものを奪って着るのは、おまえたち蛮族のいつもやっていることではないか。わしを殺してから、血のついた服をおまえ自身で剥ぎ取って着たらよかろう」
「なに!」
馬福塔大怒。
馬福塔大怒す。
馬福塔は大いに怒った。
そして、ドルゴンの方を振り向いた。
その若い親王、やがて清国の国柄を握り、チャイナ本土への侵略を成功させる稀代の戦略家・睿親王ドルゴンは端正な顔に笑みを浮かべ、馬福塔に向かって頷くと、テントの奥に入って行った。
「好きにしてよい」
との御意である。
馬福塔は世魁をにらみつけると、
「まあ、その勇気に免じて楽に行かせてやるわ」
と、
即刻推出斬首。
即刻、推出して斬首せり。
ただちにテントから連れ出して、その場で首を斬ったのである。
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「清通鑑」前編巻二十六より。きつい殺し方でなくてよかったですね。
その人を殺してその人の着物を奪うのが蛮族の常事なら、必ず何かの間違いがあるのは肝冷斎の常事です。どうせ次も何か失敗します。今日のところはWBC対中国戦も快勝したし、みんなシアワセになりましょう。