道人不見(道人見えず)(「東軒述異記」)
こういう人は、なかなか見えないです。見えるようになるともうそろそろ近いかも・・・。

五平餅でも食って、これからのことを考えまるかな。五平餅も、熱いときは「はふはふ」になります。
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清のはじめごろのことでございます。
洞庭湖の東では、席・翁・呉・許という四つの一族が富豪とされていたが、このうち許の一族は没落してしまっていた。落ちぶれた許家に、許七老官(許氏の同じ世代で七番目の男子で、高齢のおじさん)という人がいて、
家貧而患瘵、骨立声嘶、命在旦夕。
家貧にして瘵を患い、骨立して声嘶にして、命、旦夕に在り。
貧乏暮らしの中で肺病を患い、骨だけになって声もしわがれ、今晩か明日の朝には危うい、というような末期症状を呈していた。
末期症状だからといって医者に見せるカネがあるわけではない。許七は、既に死を覚って、その日の夕方、杖をついて家の外に出て、家の周りなどをゆっくりと見て歩いていた。
しばらくすると、突然ひょろひょろと家の中に入ってきて、
覓太平銭。
太平銭を覓(もと)む。
「はあはあ、はふはふ、ば、ばあさんや、太平銭(明代の銅銭。当時通用していた)はあるかのう?」
と老夫人に言った。
「うちにそんなお金ありますかいな・・・」
「はあはあ、はふはふ、そ、そうかのう・・・」
不可得、遂携米升余出施。
得べからず、遂に米升余を携えて出施せんとす。
銭が無いので、今度はコメを一升余り持ち出して、家の外の誰かに恵んで遣ろうとするようだ。
「お、おまえさん、そのコメは今晩の一家分だよ」
とばばあが追いかけようとしたが、その前に許七はがっかりしたように帰ってきた。
「どうしたんだね」
「はふはふ、じ、実はのう・・・」
先ほどじじいは家の外で、
忽遇黄胖道人。視之曰、子病篤矣。我化爾太平銭三文、予薬三丸。可供在香火堂内、作三次服之、有救也。
忽ち、黄胖道人に遇えり。これを視て曰く、「子、病い篤し。我、爾の太平銭三文を化して、薬三丸を予(あた)えん。香火堂内に在りて供え、三次の服を作せば、救う有るべし」と。
どこからか現れた黄色いでぶの道士に会ったのだそうである。道士は、許七をじろじろ見て、
「お前さんは、申し分けないが、どう見てももう死にそうじゃな。・・・わしは、おまえさんの太平銭三文を変化させて、丸薬三粒を調合してやろうと思う。お香を焚いた家の正堂でご先祖の位牌の前にお供えして、三回服せば治るかもしれんぞ」
と言った。
「はあはあ、はふはふ、お、お願いじゃ・・・」
と頼むと、道人は(みなさん混乱してはいけませんよ)、三つの丸薬をくれた。
許受其薬、入覓太平銭。
許、その薬を受け、入りて太平銭を覓む。
そこで、許七はその丸薬をもらって、家に中に入ってきて太平銭を探した、というわけだった。
太平銭が無かったのに、探しに行く前に「丸薬」をくれているのです。言ってることと違っているようですが、あんまり登場人物誰も気にしていません。
しかし、銭の代わりのコメを持って家の外に出てみると、もう
道人不見矣。
道人見えざりき。
道士の姿はどこにも見えなかった。
のだそうだ。
是夜病甚。其妻聞道人之言、試取薬進之。
この夜、病甚だし。其の妻、道人の言を聞き、試みに薬を取りてこれを進む。
この夜、許七の病はひどくなり、もはや危篤状態であった。ばあさんは、ふと許七が聞いたという道士の言葉を思い出して、どうせ助かりそうにもないので、許七がもらったといっていた丸薬を取り出して飲ませてみた。
すると、はてさて、
一服而熱寐。
一服にして熱寐(やす)む。
「寐」は「寝」と同じで「寝る」。「休息、終息する」。
一粒目を飲ませたら、熱が引いた。
再服而霍然。
再服にして霍然たり。
二粒目を飲ませたら、しっかりと起き上がった。
三服而声朗体強、壮健異常。
三服にして声朗として体強、壮健異常なり。
三粒目を飲ませたら、おお、なんと、許七は突然声を出して話し始めた。その声朗々として大きく、体も強く、異常なほど元気になった。
その後、許七は、
逮十余年而没。康煕十五年春。
十余年に逮(およ)びて没す。康煕十五年春なり。
十数年経って、ほんとに亡くなった。康煕十五年(1676)の春のころである。
生活も少しは楽になったが、どういうわけか何かで儲けがあるたび、そのうちの三分(3パーセント)は必ず損金になってしまったという。
よかった・・・かどうか、許七がすごいパワハラじじいでみんなが困ってたかも知れませんので、禍福はあざなえる縄のごとし、まあすべて前世の御縁だと思って何事も受け入れることが必要ですじゃ。
それにしても、こういうことがほんとにあったというのですから、昔の人はすごいなあ。
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清・東軒主人「東軒述異記」巻下より。会社の階段、地下鉄の階段、家の前の坂道、少し歩くと「はあはあ、はふはふ」と息が切れます。今もじっとしてるのに「はふはふ」だ。興奮しているみたいに見えますね。これで今晩、明日の寒さを乗り切れるのだろうか。二軍に行かされるかも。
でも、不思議な道士が現れて薬くれるかも知れないから、心配してもしようがないですね。みなさんもこの不思議な道士に出会っているかも知れません。何かをもらっているかも知れません。気づいてないだけで。