投間何足惜(投間、何ぞ惜しむに足らん)(「觚賸」)
早く暖かくなってもらいたいもんですなあ。やることなくても行くところが無い。

ようし、冒険の旅にでも出るか。春になったら、ですが。
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清の康煕年間のこと、江西・南昌の進賢県に住む劉艇という人は、三藩の乱などで活躍した軍人で、「将軍」の称号を持っていたが、
勇敢善戦、毎奏功、以負気難下人、故旋起旋帰。
勇敢にして善戦し、つねに功を奏せらるも、負気を以て人に下り難く、故に旋起して旋帰せり。
勇敢で戦上手で、戦いのたびに功績をあげて上奏されたが、プライドが高くて人にへりくだることができないので、あっという間に出世するのだがあっという間に仕事を辞めて帰郷してくるのであった。
しかし、
畜健児戦馬、雖家居、豢養如平日。
健児・戦馬を畜(やしな)い、家居するといえども、豢養すること平日の如し。
若い衆や軍馬を育成しており、自宅待機中でも、いつでも部下を率いて出陣できるように保持していた。
やがて都から黄貞父という知事が来ると、
将軍款之。
将軍これに款せり。
どういうわけか、劉将軍は、この人とウマが合った。
「款」は「よろこぶ」「気が合う」の意。
偶及技勇、命取板扉、以墨筆錯落乱点、袖箭擲之、皆中墨処。
たまたま技勇に及ぶに、命じて板扉を取り、墨筆を以て乱点を錯落せしめ、袖箭してこれを擲つに、みな墨処に中(あた)れり。
ある時、宴席で武術の話になったところ、将軍は部屋の板の扉を外させて、それに筆であちこちに墨を落とさせた。それを離れたところに立てて、矢を手にすると、(弓を使わずに)投げ矢をして、すべて墨のところに突き立てた。
コントロールがよかったのです。阪神ファンなら「小山の再来やで」と騒ぎ始めることでしょう。320勝もしてるんですよ。
ある時は、役所の前の広場で、催し物をした。
出戦馬数十匹、一呼倶前、麾之皆却、噴鳴跳躍、作臨陣勢。
戦馬数十匹を出だし、一呼すればともに前(すす)み、これを麾(さしまね)けばみな却き、噴鳴して跳躍し、臨陣の勢を作す。
将軍は家で養っている軍馬数十匹を連れてきたが、一回声をかけると馬たちは一緒になって前に進み、次に手をさしまねくような合図を送ると、みな退いて、声をあげて鳴きながら飛び跳ねて、戦場に臨んだように行動した。
見者称嘆。将軍曰、某投間何足惜。独令群馬伏櫪、思戦場、為可惜耳。
見者称嘆す。将軍曰く、「某の投間するは何ぞ惜しむに足らんや。ひとり群馬をして櫪に伏して戦場を思わしむること、惜しむべしと爲すのみ」と。
観ていた者たちは、みなため息をついてほめたたえた。しかし、将軍は浮かぬ顔をして言った、
「やつがれがヒマをいただいているのは何も残念なことではないのじゃが、このウマたちを馬小屋の横木に寄り掛かったままで、遠い戦場で手柄を立てるのを懐かしませてしまっているのが、残念でならぬでのう」
と。
言已欷歔。貞父亦改顔良久。
言い已みて欷歔(ききょ)す。貞父もまた改顔することやや久しかりき。
「欷」は「なげく」、「歔」は「すすりなく」です。
言い終わって、将軍は嘆いてすすり泣きした。知事の黄貞父もまた悲しそうな顔をして、しばらく動かなかった。
泣かなくてもいいのに、と思いますが、わたしも「間に投じて」何の惜しむところもありませんぞ。また、若いものが活躍できないのは残念じゃ。
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清・鈕琇「觚賸」巻四「燕觚」(北京周辺のお話)より。「要するに、自分は楽にして若い者に働かせようとしているわけでしょう。老害である、やっつけろ」とやられてしまいます。抵抗力ないのに抵抗勢力みたいになってきた。誰だ、こんな世の中にしてしまったのは? ・・・すんまへん、わしらでした。