3月29日 花見酒の季節が来るのだろうか

共坐地食(共に地に坐して食う)(「奇聞類紀摘抄」)

やっと春になってきました。さくら開花はまだのようですが、明日ぐらいから花見客が出始めるかも知れません。

コロナが明けたとされる今年、昭和のような車座の花見があるのだろうか。経済的には知らんけど。

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明の半ば過ぎ、浙江・呉山の西に黄村という村がありまして、そこの匠者(大工さん)の王某が、ある晩、仕事を終えて帰るうちにまったくの夜になってしまった。

春先の生暖かい夜気の中を歩いていくと、

逢一人青衣白束腰、如隷卒状、問所之。

「おまえさんこそ、どこに行くんだね」

と訊ねると、

欲至黄村。

というので、大工はたいへん喜んだ。

身亦却帰黄村、今相得為伴甚佳。

「そう・・・かも知れないですね」

偕行数里、卒指道傍民家謂匠曰君亦思酒食乎。吾能以彼取之。

明代の一チャイナ里≒560メートルで計算しました。

大工は言った、

善。

すると、

卒入門、少選、携一鏇酒及一熟鶏来、共坐地上食之。

「あそこの家とは知り合いなのかい」

「知らないわけではない、て関係でしょうか」

などと会話して意気投合した。

食べ終わって、下僕が大工に言うには、

君姑留此。我入此家、了公事也。

そこで、大工は、

取鏇納著柴積中、立俟之。

しばらく待っていると、

俄見窓裏擲出一人手足束縛。

「え?」

継而卒自窓躍出、負之而去。其行如飛、便聞門内哭声。

「強盗だったのか!」

匠驚而奔回。

明日往験之、乃知其家主翁、昨夜死矣。

「強盗か何かが入ったのですか」

「いえいえ」

弔問帰りの近所の人にいうことでは、普通に家人たちに看取られて死んだのだという。

「安らかに亡くなったということですよ。御遺体に面会してきましたけど、きれいな死に顔でした」

「亡骸はあるのですか・・・」

「もちろんですよ。ただ、

昨祭五聖、失去酒鏇一鶏一。

と不思議がっていましたね」

「はあ」

匠者探柴積得鏇鶏骨。始悟其為冥卒也。

それにしても、なぜ「待っていろ」と言っていたのか、もし待っていたら、何が起こったのだろうか。大工はそれから何年もそのことを考えていたということである。

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明・施顕卿「奇聞類紀摘抄」巻四より。待っていたら、今よりはいいところに行けたのかも。知らんけど。

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