莫有知者(知る者有るなし)(「帰田録」)
宋の時代の話なので、今のように進んだ時代のことではありません。それにしても、この本、三日続けて引用していますが、いろんなこと書いてあっておもしろいですね。

みなさんもこういう本を勉強すれば、わしのような知恵蔵になれるかも知れんぞ。
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諸薬中犀最難擣。
諸薬中、犀最も擣(つ)き難し。
いろんな薬品の中で、「犀」(さい)が最も搗いて粉にするのが難しい。
「犀」という薬品は、ユウガオ科の植物の種子をいうこともあるようなのですが、ここは大きさからして「サイの角」のことでしょう。
先鎊屑乃入衆薬中、擣之。衆薬篩羅已尽而犀屑独存。
まず屑を鎊(けず)りてすなわち衆薬中に入れ、これを擣(つ)く。衆薬羅(あみ)に篩いてすでに尽くるに、犀屑のみ独り存す。
最初にサイの角を削って、これをいろんな薬の原料と一緒にして、薬研の中で搗いて粉にする。それから、この粉を網で篩ってみる。ほかの原料はすべて粉になって下に落ちてしまっても、サイ角だけは網に残るのである。
このため、一般にはある程度の塊のままで服用するしかなく、効果が限定されてしまうのだが、
余偶見一僧元達者、解犀為小塊子方一寸半許、以極薄紙裹置於懐中近肉、以人気蒸之。
余、たまたま一僧・元達なる者を見るに、犀を解きて小塊子の方一寸半ばかりと為し、極薄の紙を以て裹みて懐中の肉に近きに置き、人気を以てこれを蒸す。
わしは偶然、元達という僧侶のやり方を見たところ、彼は、サイ角を削って5センチほどの小さな塊にし、これを極めて薄い紙に包んで、懐の中、自分の肌に近いところに入れて、人体から発散する気で、これを蒸していた。
候気燻蒸浹洽、乗熱投臼中、急擣応手如粉。
気の燻蒸して浹洽(きょうこう)するを候い、熱を乗じて臼中に投じ、急擣すれば応手して粉の如し。
「浹洽」は「あまねく行きわたる」「全体が濡れる」ことです。
人体の気で蒸して、全体が濡れたころを見計らい、熱した上でウスの中に放り込み、即座に搗くと、搗くに従って粉末になるのだった。
因知人気之能粉犀也。
因りて知る、人の気のよく犀を粉とするを。
人間の体が発散する気が、サイ角を粉末にする力を持つことが、これでよくわかった。
然、今医工皆莫有知者。
然るに、今の医工みな知る者有るなし。
しかしながら、現代(宋代)の医師たちは、誰もこのことを知らないのである。
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宋・欧陽脩「帰田録」巻二より。人間の力はたいへんなものなのです。勉強になるなあ。新聞が信用度が一番高いといっても5割そこそこのようですが、それより信用度高いのでは。
なお、これはシュールレアリズム的手法ではないでしょうか?