言及殺虎(言、虎を殺すに及ぶ)(「水東日記」)
今年も阪神は強そうだが、今日のところはメジャーリーグの開幕の話題ばかりです。それはそうとしまして、花粉のせいか、すごく寒いからか、鼻水が出て目がぼんやりして調子悪いんで早く寝よう・・・だがその前に今日も勉強だ。他のひとの知らないような新知識を得て、見返してやるのだ。

ラスボスはトラよりおれかも、でぶー!
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明の前半、15世紀の半ばぐらいのことですが、元帥府の茶会に行ったら、
言及殺虎。
言、虎を殺すに及ぶ。
トラの殺し方についてひと議論あった。
それにしても、
虎骨之異、雖咫尺浅草能身伏不露、及其虓然作声、則嶷然大矣。
虎骨の異なる、咫尺の浅草といえどもよく身を伏して露(あら)わさざるも、その虓然(こうぜん)として声を作すに及びて、すなわち嶷然(ぎぜん)として大なり。
「虓然」は「吼える様子」、「嶷然」は「どでかい」。
トラの骨格というのは不思議で、20~30センチの短い草の原でも、ぴったりと身を伏せて周りから見えないようにすることができる。ところが、吼え声をあげて飛び上がったときには、どかーん、と大きく見えるのだ。
このような怖ろしいトラですが、人間には敵いません。
殺虎法、当用三支鎗。
虎を殺すの法は、まさに三支鎗を用うべし。
トラを殺すには、「三本の穂先のついた鎗」を使うことだ。
その鎗を使えば、
虎撲人、性勁、必及中鎗即殺者上格、退次之、左右鎗既接、可殺也。
虎の人を撲つに性勁(つよ)ければ、必ず中鎗に及んで即ち殺す者は上格にして。退きてこれに次ぐは、左右鎗既に接して殺すべきなり。
トラが人間を攻撃してくるときはとにかく強い。三本の穂先のうち真ん中ですぐに殺せる者は(軍人としても)上層部である。少し落ちてそれに次ぐレベルの者は、(少しずれても)左右の穂先で仕留めることができる。
「なるほどなあ」
と感心していると、別の人が言い出すには、
野豕力雄甚、牙一触馬腹即潰。
野豕の力雄なること甚だしく、牙一触すれば馬腹即潰す。
「野豕」は文字通り「野ブタ」(野生に帰ったブタ)かも知れませんが、牙があるので「いのしし」と解しておきます。
野生のイノシシは力が無茶苦茶強くて、牙が少し触れただけで馬の腹なんか一発で裂けてしまう。
こちらの方がトラより厄介だ、と。
其尤老者、恒身漬松脂、眠以砂石、為自衛之計。鎗不能入也。
その尤も老なる者、恒に身に松脂を漬け、眠るに砂石を以てして自衛の計を為す。鎗入る能わざるなり。
中でも老獪なやつは、いつも体に松脂を擦りつけ、寝る時には砂利の上で寝て自分を守ることを考えている。すると、体中に石がへばりついて、鎗も突き刺さらないのである。
「へー、それはすごいですね」
ある人が
「おたくさまは、あのことはご存じですかな?」
と、声をひそめて言うには、
中官海寿、射生有名、無不応弦倒。
中官海寿、射生として名有り、弦に応じて倒さざる無し。
宦官の海寿さま―――あの方は、すぐれた射手として有名で、弓のツルを弾けば倒れないドウブツは無いほどなのでございますが・・・。
当時の政府は、地方や軍隊に「政治将校」のように宦官が派遣されて監視していました。海寿はその一人で、おそらく権力に近づくために自宮(自発的に宮刑=アレを切る)した有能な人物だったのでしょう。
その海寿さまが、
一日、得老豕、矢着輒火迸、数矢不入。
一日、老豕を得、矢着するにすなわち火迸して、数矢するも入らず。
ある日、老獪そうなイノシシを見つけた。矢を発するに、びしっと命中したのだが、怒ってこちらに突進してくるのだった。続けて数本の矢を射込んだが撥ね返されてしまった。
ぶぶぶぶぶー!!!!!
イノシシはどんどん近づいてきます。
その時(どうせ悪意を持ってしか上に報告しない宦官など放っておけばよろしいものを・・・)、
一老胡教之云、令数卒随之作呵喝声。
一老胡これに教えて云う、数卒をしてこれに随いて可喝の声を作さしめよ。
老いたペルシャ人が教えて言った、
「兵士らに命じて、イノシシの突進に応じて
「かあっーーーつ!!!!!!」
と怒鳴り声を出させなされよ!」
そうしたところ、威嚇するかのように、
豕、必昂首聴。
豕、昂首して聴く。
イノシシは、その声を聞いて、首を持ちあげた。
その瞬間に、
頷下着矢、彼必倒地。
頷下着矢すれば彼必ず地に倒れん。
「あごの下に矢を射こめば、イノシシめは必ず斃れますぞ!」
「おう!」
そのようにしたら、イノシシは足を止め、苦しそうに身もだえした。
老人がさらに叫んだ、
尾後更着矢。
尾後更に着矢せよ。
「止まったら、しりの穴めがけて更に射こみなされよ!」
「おう!」
と、ずぼん、ずぼん、と続けざまにしりの穴に矢をぶちこむと、
斯仆矣。
すなわち仆る。
イノシシは、かくして死んだ。
「さてさて、イノシシどのの次に血祭にあげられるのはどなたになりますやら・・・」
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明・葉盛「水東日記」巻二十八より。これは勉強になった。今度トラやイノシシと戦う時には参考にします。宦官とか政治将校とかそれに類する者に対応する時にも参考にします。チャイナ古典はタメになるなあ。・・・と新知識を身に着けているうちにまたこんな時間に!