農人斂手(農人、手を斂(おさ)む)(「明語林」)
シゴトはいやなのでもうすぐしなくなる予定。
三人官女B「もうさせる仕事も無いみたいですもんね」
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明の時代のことですが、礼部尚書(文部大臣)であった呉琳が引退して郷里に帰った。
皇帝の信頼きわめて篤い大臣であったので、対立していたグループはその動向が気になってしようがない。突然上奏して意見など言うのではないかと心配なのである。そこで、
遣使察之。
使いを遣りてこれを察せしむ。
使者を立てて、その様子を調べさせることとした。
使者とされた宦官は、
潜至其傍舎。
潜かにその傍舎に至る。
身分を明かすことなく、そっと呉琳の実家のそばの小屋に入った。
小屋の中では、
見一農人孤坐小几、起抜稲秧、徐布田間。
一農人の小几に孤坐して、稲の秧(おう)を起抜し、おもむろに田間に布(し)くを見る。
農民が一人、小さなイスに腰かけて、イネの苗を(苗代から)抜き取って、じっくりと、(既に田植えの済んだ)田んぼの中に苗がまばらになってしまっているところがないかチェックして、まばらなところに補充して植えているのが目に入った。
コマかいシゴトであるが、農民は実に真剣にそれに取り組んでおり、
貌甚端謹。
貌甚だ端謹なり。
顔つきをたいへんマジメで謹厳である。
(マジメそうなやつだなあ)
と思いながら、宦官は訊いた。
此有呉尚書、何在。
これ呉尚書有りて、いずこに在りや。
「このあたりに呉大臣というおえらいひとがおるはずだが、何をしているか知っているか」
老人は怪訝そうな顔をして聞いた、
「知っております。日頃は百姓仕事をしておりますな」
「おまえさんたちを働かせて、自分は何かたくらみ事をしたりしてないか」
農人斂手、曰、琳是也。
農人手を斂(おさ)めて、曰く、「琳これなり」と。
百姓は作業をしていた手を袖口から引き入れて組み合わせ(、手を胸の前で合わせて挨拶をすると)、
「琳はここにおります」
と答えた――――。
「――――と、まことに驚きましてございます」
使者還以状聞。
使者還りて状を以て聞す。
使者の宦官は都に戻って様子を報告した。
その報告を聴いて、対立派の面々はなお難しそうな顔をしていたが、皇帝はひとり手を拍って、
「如何にも呉琳は元気そうじゃな」
と喜んだ。
上益重之。
上ますますこれを重んず。
皇帝は、対立派の思惑と外れて、さらに呉琳への信頼を強めたのであった。
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清・呉粛公「明語林」巻一・徳行上より。退職後も農業をして大変ですが、この人はシゴトが好きなのでしょう。今日は観BタマにOM氏に付き合ってもらったが、仕事がたいへんなのを聴いて心配になってきました。おれはしない、のは当たり前として、「働き方改革」とコトバだけ踊らせておいて、若い人にこんなことさせていてはネコ以下にゃぜ・・・。